いま私たちはどんな時代を生きているのか?──そんな問いを人文・社会科学分野の研究者の方々とともに探るプロジェクトとして2022年10月に立ち上がったデサイロ。
2023年は、人文・社会科学分野の研究者向け伴走支援プログラム「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」の立ち上げと初年度の採択者決定、『Forbes JAPAN』2023年5月号の第3特集に共同企画・編集として参加、人文・社会科学分野における課題と機会領域を探る「リサーチレポート」の制作に向けたクラウドファンディングの実施など、さまざまな活動に取り組んできました。
こうした取り組みを経て、デサイロという場が少しずつユニークなものとして育ってきている感覚があります。デサイロとして支援させていただく研究者の方々を筆頭に、アーティストやクリエイター、産業界にいながらも研究知に関心のあるビジネスパーソンなど、デサイロの周辺に既存のアカデミアとは異なる実践や経済循環のためのエコシステムが育ちつつあります。
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2024年は、年間を通じて「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」採択者のみなさんへの伴走支援を実施。そのほか、4月には、研究者とアーティスト/クリエイターによるコラボレーション作品やパフォーマンスが展開される大型イベントを開催。その後、成果をまとめた書籍を自社の出版レーベル「デサイロ パブリッシング」から刊行予定です。また、同じく24年4月には先述のリサーチレポートも刊行します。
研究"知"とともに次なる社会を探索
2024年に活動をより拡大するうえで、新たに「研究“知”とともに、次なる社会を探索する」というミッションを定めました。
研究により生み出される知は、いま私たちが生きている時代を読み解く、あるいは社会がこれから直面する課題発見のための重要なリソース(資源)であるはず──。こうした視点に基づき、「いま私たちはどんな時代を生きているのか」を研究者とともに探り、そのなかで立ち現れるアイデアや概念を頼りに、来るべき社会の探索と構想を目指します。
また、そうした研究“知”を豊かにするために、大学、研究所、企業、行政、出版・メディア、そして生活者といった多様なステークホルダーと連携しながら、社会のコモンズとしての「研究」とそれを取り巻くエコシステムを支えていきます。
また、活動のアプローチを次の2つに整理することにしました。
1.研究者エージェンシーとして、研究者を伴走支援
アーティストやクリエイターの活動をマネジメント事務所がサポートするように、デサイロは人文・社会科学分野の研究者を伴走支援し、持続的な活動をサポートします。研究と社会の接点を探り、多様なステークホルダーと連携した研究“知”の活用や、アカデミア外に広がる研究者のキャリアデザインを支援します。
2.研究エコシステムを豊かにするためのプロジェクト展開
持続的な研究活動のための資金調達やキャリアデザイン、新しい研究評価の枠組みの検討まで──研究エコシステムを豊かにするためのプロジェクト組成や、調査報告レポートの作成に取り組みます。
研究がもつ社会インパクトの最大化を
こうした一連の活動やアプローチにより実現したいのは、人文・社会科学分野の研究がもたらす社会インパクトの最大化です。その社会インパクトの定義は困難かつ、一義的ではないと思いますが、デサイロが現時点で捉えているインパクトとは、下記のようなものです。
まず、研究を通じて提唱された概念やコンセプトはときとして人々のパーセプションを大きく変えるかもしれません。例えば、デサイロの立ち上げ時に書いたように私は20世紀の哲学者ハンス・ヨナスの「将来世代への責任」に関する研究を戸谷洋志さん(関西外国語大学准教授)に訊いたとき、世界の捉え方が大きく変わった感覚があります。
また、今回の「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」の採択者のみなさんによる研究であれば、それが「ひとがうたうこと」や「暴力」「死そのもの」への捉え方を大きく変える可能性を秘めています。
関連記事:【採択者発表】人文・社会科学分野の研究者向け伴走支援プログラム「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」第1期
ほかにも、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的・法的・社会的課題)に代表されるように、急速に進化するテクノロジーに関連する課題の特定や、そもそも人々が課題として捉えていないものを研究を通じて明らかにすること。そうした研究知が政策提言につながることで、新しい社会制度が実装されるなど、ボトムアップとトップダウンの両側面から人文・社会科学の知は多様なインパクトをもたらすはずです。
人文・社会科学分野の知の活用という観点では、『人文社会系産官学連携 社会に価値をもたらす知』の著者である南了太さん(京都精華大学国際文化学部准教授)が提唱する「統合型産官学連携モデル」がヒントになるかもしれません。今後のリサーチレポート制作でも、人文・社会科学分野の知がもたらす社会インパクトの定義に取り組んでいければと考えています。
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既存のシステムを変えるためにアプローチし、社会にポジティブな変化を起こそうとすれば時間もかかるし、デサイロというひとつの団体にできることは決して多くないかもしれません。けれども、人文・社会科学分野の知が次なる社会を探索するうえでの重要な立脚点となり、その知が生まれるエコシステムをより豊かにしていくために2024年も活動を続けていきます。ぜひご期待ください。
プロフィール
岡田弘太郎(おかだ・こうたろう)
編集者。一般社団法人デサイロ代表理事。『WIRED』日本版エディター。クリエイティブ集団「PARTY」パートナー。スタートアップを中心とした複数の企業の編集パートナー。アーティスト・なみちえのマネジメントを担当。研究者やアーティスト、クリエイター、起業家などの新しい価値をつくる人々と社会をつなげるための発信支援や、資金調達のモデル構築に取り組む。1994年東京生まれ。慶應義塾大学にてサービスデザインを専攻。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」選出。Twitter: @ktrokd
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人文・社会科学の知を頼りに「いま私たちはどんな時代を生きているのか」を考える。デサイロの軌跡と展望【De-Silo Meetupレポート】