人類学者に応答し、3名の小説家が短編を書き下ろし。ワークショップで考える「21世紀の理想の身体」──磯野真穂×松田青子・李琴峰・山内マリコ【DE-SILO EXPERIMENT 2024 プログラム紹介】
DE-SILO EXPERIMENT 2024にて体験できるプログラムの詳細と背景意図を紹介する本シリーズ。今回取り上げるのは、人類学者・磯野真穂が設定した「21世紀の理想の身体」という研究テーマに対して、松田青子・李琴峰・山内マリコという3名の小説家が、オリジナルの短編小説という形で応答するプログラムだ。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント。
4/13は李琴峰と山内マリコ、4/14は松田青子と山内マリコが、書き下ろした短編小説を題材に来場者自らに「理想の身体」を考えてもらうワークショップ、そして人類学者・磯野真穂とのトークセッションに出演する。
参加希望の方は下記ウェブサイトから「DAY1 パフォーマンスチケット」または「DAY2 パフォーマンスチケット」の購入を。
研究者とアーティストの協働により生み出された作品展示やパフォーマンスが展開される「DE-SILO EXPERIMENT 2024」。
本イベントに参画する研究者の一人である、人類学者・磯野真穂が設定した研究テーマは「21世紀の理想の身体」だ。
人間は、自分の身体に必ず手を入れる。その理由は手を入れると安心するから。そのままだと不安だからだ。
「ありのまま」といった言葉が近年もてはやされているが、現状はその逆である。毛髪再生医療や美容整形、医療痩身といった言葉に代表されるように、時に医療の手も借りながら、私たちは自分の身体を加工する。
加えて、身体のデジタル化を容易にしたSNSやメタバースなどのIT技術の進化は、他者に見せるための身体変工の幅を広げ、かつ容易にした。しかしここまできても、身体変工はとどまることがない。あるひとつの問題が解決されても、次なる問題が発見発掘され、私たちはその修正に追われるからだ。
本プロジェクトでは、身体変工を取り巻く技術、情報、さらには「問題のある身体」を「理想の身体」に作り変えたいという欲望を支える分類思考を中核概念とし、多種多様な身体変工を俯瞰的に捉える。その作業を通じ、21世紀の理想の身体とその裏にある不安、さらにはその身体に賭ける希望のかたちを浮かび上がらせてみたい。
※研究テーマの背景を伺ったインタビュー記事:
“ありのまま“ではいられない私たち。「理想の身体」への欲望から見えてくるもの──人類学者・磯野真穂
このテーマに応答するのが、松田青子・李琴峰・山内マリコという3名の気鋭の小説家たちだ。
参考記事:
特定の「理想の身体」が支配的になる世界を描写した物語を描く──小説家・李琴峰【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
“21世紀の身体観”から取り残された人の「違和感」を描く──小説家・松田青子【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
「21世紀の理想の身体」を手に入れた人々の機微を、小説で描き出す──小説家・山内マリコ【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
「ダイエット」はもはや流行語の域を超えて一般名詞となり、美容脱毛や美容整形も特別なことではなくなりつつある昨今。美容にとどまらず、毛髪再生医療や医療痩身といったアプローチも普及の一途をたどっている。一人ひとりが自身の「理想」に向けて、身体を改変・加工し続ける先には、どのような未来が広がっているのだろうか?
そんな問いを背景に、リスク概念と身体の関わりを多面的に調査し続けてきた磯野は「21世紀の理想の身体」をテーマに設定し、その研究内容をもとに二つの短編を制作した。
「HRR」:2085年脱毛は人権になった
「もう出すことはやめた」:HRRのその後。人類はさらなる美しさを求めて走り続ける
この2編とその背景にある研究テーマを解釈し、3名の著名小説家が新作となる短編を生み出した。
松田青子が描き下ろした「シェア」では、「地上最後のセックスを経験したことのある女」だという一人の女性の内面に深く入り込み、その女性の語りを通して物語が展開されていく。誰かへのシェアを拠り所とし、身体を中心に「薄く、透明になること」を追い求めた人類の行く末が、多層的に表現されている。
李琴峰による短編「理想の身体」では、1人称の世界観をベースに「身体男性」「身体女性」という想像上の概念が物語の軸に据えられている。「無機物になること」を理想とし、さまざまな要素を自分から「消去」しようとしていく主人公が、物語の最後にたどり着いた「消すべきもの」とは──。
山内マリコによる短編「世界を変えた20歳以下の100人」では、「HRR」の登場人物である「ユミ」と「アキラ」に焦点が当てられている。脱毛の概念を一新する薬剤の普及を担うNPO団体「Hairless Hope」はなぜ生まれたのか。ライブ配信をきっかけに、二人の若者が自宅の"パーソナル"な空間を突き破り、やがて世界を大きく変えていく様子が鮮明に描かれる。
イベント当日は磯野と小説家たちのトークセッションに加え、ここで生まれた小説=物語を題材に来場者自らが「理想の身体」を考えるワークショップが行われる。「人は物語に夢中になるほど、そこに何があるかを自然と探ろうとする。これを人類学の学びの中で再現したい」という磯野の想いから始まった本取り組み。研究“知”をひらく実験の過程に、会場でぜひ参加してほしい。
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