特定の「理想の身体」が支配的になる世界を描写した物語を描く──小説家・李琴峰【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
4名の研究者と11組のアーティストがコラボレーションして新作を制作し、「生の実感とリアリティ」に迫っていく2daysイベント「DE-SILO EXPERIMENT 2024」。同イベントにて制作/出演するアーティストを紹介する本シリーズで今回取り上げるのは、『ポラリスが降り注ぐ夜』や『彼岸花が咲く島』などの代表作を世に送り出してきた小説家の李琴峰だ。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント
小説家の李琴峰は4月13日に出演し、トークセッションとワークショップを開催する。参加希望の方は下記ウェブサイトから「Workshop Ticket」の購入を。
カテゴライズされる苦しみへの抵抗──。性的マイノリティや日本に暮らす外国人が登場する小説を発表してきた李琴峰の作品からは、そのようなテーマが読み取れる。
李は1989年台湾で生まれ、15歳から日本語を学びはじめた。2013年に来日。その4年後、2017年に初めて第二言語である日本語で書いた小説『独り舞』で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞し、作家デビューしている。2021年には様々な性的マイノリティの女性が登場する連作小説『ポラリスが降り注ぐ夜』で、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
また、小説『彼岸花が咲く島』で第34回三島由紀夫賞候補、第165回芥川龍之介賞を受賞した。日本語を母国語としない作家の芥川賞受賞は、2008年の楊逸以来2人目となる快挙だ。
「特定の身体像の礼賛」に疑問を呈する
鮮烈なデビューから台湾、日本と幅広く活躍する李が「DE-SILO EXPERIMENT 2024」にて応答するのが、人類学者・磯野真穂による研究「21世紀の理想の身体」だ。
21世紀の理想の身体
人間は、自分の身体に必ず手を入れる。その理由は手を入れると安心するから。そのままだと不安だからだ。「ありのまま」といった言葉が近年もてはやされているが、現状はその逆である。毛髪再生医療や美容整形、医療痩身といった言葉に代表されるように、時に医療の手も借りながら、私たちは自分の身体を加工する。加えて、身体のデジタル化を容易にしたSNSやメタバースなどのIT技術の進化は、他者に見せるための身体変工の幅を広げ、かつ容易にした。しかしここまできても、身体変工はとどまることがない。あるひとつの問題が解決されても、次なる問題が発見・発掘され、私たちはその修正に追われるからだ。本プロジェクトでは、身体変工を取り巻く技術、情報、さらには「問題のある身体」を「理想の身体」に作り変えたいという欲望を支える分類思考を中核概念とし、多種多様な身体変工を俯瞰的に捉える。その作業を通じ、21世紀の理想の身体とその裏にある不安、さらにはその身体に賭ける希望のかたちを浮かび上がらせてみたい。
参考記事:“ありのまま“ではいられない私たち。「理想の身体」への欲望から見えてくるもの──人類学者・磯野真穂
本テーマに関する人類学研究をベースに、磯野自身が「身体の未来」を提示する2編の小説を制作。その物語に応答するかたちで、李もオリジナルの短編小説を書き下ろしている。制作は目下進行中だが、李は磯野が考える「21世紀の身体」に馴染めなかった人を排斥する異様な世界観を通して、特定の身体像への礼賛が支配的になることへの疑問を呈する小説を執筆している。
磯野の研究や試みと、李の作家性がどのように交差するのか。DE-SILO EXPERIMENT 2024で李は4月13日に出演する。そこでは、描き下ろした短編小説や、磯野の研究プロジェクトを振り返るトークセッションのみならず、参加者自らが「理想の身体」を考えるワークショップを開催する。
ワークショップでは、研究“知”を起点に人々の身体、あるいはそうした身体観を形成する社会のあり方を考えるプロセスを追体験できる。トークセッション&ワークショップに参加したい方は、下記のウェブサイトから「Workshop Ticket」を選択し、購入してほしい。
【DE-SILO EXPERIMENT 2024のチケット購入はこちら】
1989年台湾生まれ。2013年来日。2017年、初めて第二言語である日本語で書いた小説『独り舞』にて第60回群像新人文学賞優秀作を受賞し、作家デビュー。2019年、小説『五つ数えれば三日月が』で、第161回芥川龍之介賞、第41回野間文芸新人賞候補に。2021年、小説『ポラリスが降り注ぐ夜』で、第71回芸術選奨新人賞を受賞。小説『彼岸花が咲く島』で第34回三島由紀夫賞候補、第165回芥川龍之介賞受賞。ほかの作品に『星月夜(ほしつきよる)』『生を祝う』などがある。
photograph : Junya Inagaki
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