“21世紀の身体観”から取り残された人の「違和感」を描く──小説家・松田青子【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
4名の研究者と11組のアーティストがコラボレーションして新作を制作し、「生の実感とリアリティ」に迫っていく2daysイベント「DE-SILO EXPERIMENT 2024」。同イベントにて制作/出演するアーティストを紹介する本シリーズで今回取り上げるのは、『持続可能な魂の利用』などの代表作を世に送り出してきた小説家の松田青子だ。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント。
小説家の松田青子は4/14に出演し、トークセッションとワークショップを開催する。参加希望の方は下記ウェブサイトから「Workshop Ticket」の購入を。
松田青子は、社会の構造や「普通」とされてきた事象に対し、フィクションを通じて異なる視点を提示してきた作家だ。例えば、『持続可能な魂の利用』では家父長制に対するアンチテーゼとして、「おじさん」が消えた社会を描く。(「おじさん」は年齢や性別による総称ではなく、「おじさん」の中には若者も女性もいます。)
1979年兵庫県で生まれ、同志社大学文学部英文学科を卒業。作家でありながら翻訳家としても活躍する。2013年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞及び野間文芸新人賞候補となった。
また、2020年に出版された英訳版『おばちゃんたちのいるところ』が、TIME誌の2020年の小説ベスト10に選出。同作はLAタイムズが主催するレイ・ブラッドベリ賞の候補になったほか、ファイアークラッカー賞の小説部門、世界幻想文学大賞の短編集部門を受賞している。同作は世界10カ国以上で翻訳が進み、2023年にはイタリア語版が「日伊ことばの架け橋賞」を受賞した。
“当たり前”から取り残された人の「違和感」
2021年にも、松田自身の育児体験談を綴った育児エッセイ『自分で名付ける』を出版するなど、さまざまな挑戦をする彼女が「DE-SILO EXPERIMENT 2024」にて応答するのが、人類学者・磯野真穂による研究「21世紀の理想の身体」だ。
21世紀の理想の身体
人間は、自分の身体に必ず手を入れる。その理由は手を入れると安心するから。そのままだと不安だからだ。「ありのまま」といった言葉が近年もてはやされているが、現状はその逆である。毛髪再生医療や美容整形、医療痩身といった言葉に代表されるように、時に医療の手も借りながら、私たちは自分の身体を加工する。加えて、身体のデジタル化を容易にしたSNSやメタバースなどのIT技術の進化は、他者に見せるための身体変工の幅を広げ、かつ容易にした。しかしここまできても、身体変工はとどまることがない。あるひとつの問題が解決されても、次なる問題が発見・発掘され、私たちはその修正に追われるからだ。本プロジェクトでは、身体変工を取り巻く技術、情報、さらには「問題のある身体」を「理想の身体」に作り変えたいという欲望を支える分類思考を中核概念とし、多種多様な身体変工を俯瞰的に捉える。その作業を通じ、21世紀の理想の身体とその裏にある不安、さらにはその身体に賭ける希望のかたちを浮かび上がらせてみたい。
参考記事:“ありのまま“ではいられない私たち。「理想の身体」への欲望から見えてくるもの──人類学者・磯野真穂
本テーマに関する人類学研究をベースに、磯野自身が「身体の未来」を提示する2編の小説を制作。その物語に応答するかたちで、松田もオリジナルの短編小説を書き下ろしている。制作は目下進行中だが、松田は磯野が考える「21世紀の理想の身体」が当たり前になった社会で、そうした“当たり前”をまた別の視点から描くことで、“21世紀の身体観”を相対化していく小説を執筆中だ。
磯野の研究や試みと、松田の作家性がどのように交差するのか。DE-SILO EXPERIMENT 2024で松田は4月14日に出演する。そこでは、描き下ろした短編小説や、磯野の研究プロジェクトを振り返るトークセッションのみならず、参加者自らが「理想の身体」を考えるワークショップを開催する。
ワークショップでは、研究“知”を起点に人々の身体、あるいはそうした身体観を形成する社会のあり方を考えるプロセスを追体験できる。トークセッション&ワークショップに参加したい方は、下記のウェブサイトから「Workshop Ticket」を選択し、購入してほしい。
【DE-SILO EXPERIMENT 2024のチケット購入はこちら】
2013年、デビュー作『スタッキング可能』が三島由紀夫賞及び野間文芸新人賞候補になる。19年、短編「女が死ぬ」がシャーリィジャクスン賞の候補に。2020年、英訳版『おばちゃんたちのいるところ』が、TIME誌の2020年の小説ベスト10に選出。同作はLAタイムスが主催するレイブラッドベリ賞の候補になったほか、ファイアークラッカー賞の小説部門、世界幻想文学大賞の短編集部門を受賞。その他の小説に『持続可能な魂の利用』『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』、エッセイに『自分で名付ける』、訳書にカレンラッセル『オレンジ色の世界』などがある。
photograph : Yuri Manabe
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