「21世紀の理想の身体」を手に入れた人々の機微を、小説で描き出す──小説家・山内マリコ【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
4名の研究者と11組のアーティストがコラボレーションして新作を制作し、「生の実感とリアリティ」に迫っていく2daysイベント「DE-SILO EXPERIMENT 2024」。同イベントにて制作/出演するアーティストを紹介する本シリーズで今回取り上げるのは、『ここは退屈迎えに来て』『あのこは貴族』などの代表作を世に送り出してきた小説家の山内マリコだ。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント。
小説家の山内マリコは4/13~14の両日に出演し、トークセッションとワークショップを開催する。参加希望の方は下記ウェブサイトから「Workshop Ticket」の購入を。
山内マリコは、地方都市の閉塞感あるいは再生、さらには東京における格差、女性同士の友情までさまざまなテーマをもとに、現代人の感情の機微を巧みに描き出してきた小説家だ。
1980年に富山県で生まれ、大阪芸術大学映像学科を卒業。2008年、短編「十六歳はセックスの齢」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞した。
彼女の鮮烈なデビュー作が、2012年に刊行された『ここは退屈迎えに来て』。前掲の「十六歳はセックスの齢」も含む8つの物語が収録された連作小説集である本作は、地方都市で青春を過ごす女性たちが、自らの居場所を探す繊細な心模様をクールな筆致で鮮やかに描き出して話題を呼び、2018年には映画化もなされた(主演:橋本愛)。
また、2016年に刊行された長編『あのこは貴族』では、地方生まれの女性と東京生まれの女性を軸に、結婚をめぐる女性たちの葛藤と解放を類稀な解像度で描き出した。本作も2021年、門脇麦を主演として映画化され話題を呼んだ。
「21世紀の理想の身体」の世界における感情の機微
昨今もエッセイ集『結婚とわたし』(筑摩書房, 2024)を刊行するなど、精力的に作家活動を重ねている彼女が、「DE-SILO EXPERIMENT 2024」にて応答するのが、人類学者・磯野真穂による研究「21世紀の理想の身体」だ。
21世紀の理想の身体
人間は、自分の身体に必ず手を入れる。その理由は手を入れると安心するから。そのままだと不安だからだ。「ありのまま」といった言葉が近年もてはやされているが、現状はその逆である。毛髪再生医療や美容整形、医療痩身といった言葉に代表されるように、時に医療の手も借りながら、私たちは自分の身体を加工する。加えて、身体のデジタル化を容易にしたSNSやメタバースなどのIT技術の進化は、他者に見せるための身体変工の幅を広げ、かつ容易にした。しかしここまできても、身体変工はとどまることがない。あるひとつの問題が解決されても、次なる問題が発見・発掘され、私たちはその修正に追われるからだ。本プロジェクトでは、身体変工を取り巻く技術、情報、さらには「問題のある身体」を「理想の身体」に作り変えたいという欲望を支える分類思考を中核概念とし、多種多様な身体変工を俯瞰的に捉える。その作業を通じ、21世紀の理想の身体とその裏にある不安、さらにはその身体に賭ける希望のかたちを浮かび上がらせてみたい。
参考記事:“ありのまま“ではいられない私たち。「理想の身体」への欲望から見えてくるもの──人類学者・磯野真穂
本テーマに関する人類学研究をベースに、磯野自身が「身体の未来」を提示する2編の小説を制作。その物語に応答するかたちで、山内もオリジナルの短編小説を書き下ろしている。制作は目下進行中だが、山内は磯野の小説に登場するある登場人物に注目し、「身体の未来」におけるその人物の機微を描く小説を執筆中だ。
磯野の研究や試みと、山内の作家性がどのように交差するのか。DE-SILO EXPERIMENT 2024で山内は4/13~14の両日に出演する。そこでは、描き下ろした短編小説や、磯野の研究プロジェクトを振り返るトークセッションのみならず、参加者自らが「理想の身体」を考えるワークショップを開催する。
ワークショップでは、研究“知”を起点に人々の身体、あるいはそうした身体観を形成する社会のあり方を考えるプロセスを追体験できる。トークセッション&ワークショップに参加したい方は、下記のウェブサイトから「Workshop Ticket」を選択し、購入してほしい。
【DE-SILO EXPERIMENT 2024のチケット購入はこちら】
山内マリコ(小説家)
1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2008年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞し、2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。同作と『アズミハルコは行方不明』『あのこは貴族』がこれまでに映画化されている。2022年4月、作家18名と連名で、原作者の立場から映画業界の性暴力性加害の撲滅を求めるステートメントを発表。同年6月より日本文藝家協会で理事を務める。『パリ行ったことないの』『選んだ孤独はよい孤独』『あたしたちよくやってる』『一心同体だった』『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』など著書多数。最新刊はエッセイ『結婚とわたし』。