「感情」すらも資本化されていく時代の行く末を、「ゲーム」を通じて問う──メディアアーティスト/ゲーム開発者・木原共【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
DE-SILO EXPERIMENT 2024にて制作/出演するアーティストを紹介する本シリーズ。今回取り上げるのは、新たな問いを人々から引き出す遊びをテーマに、実験的なゲームやインスタレーションの開発を行なう木原共だ。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント
近年では、「アルスエレクトロニカ STARTS PRIZE(2021)」へのノミネートや、「日テレイマジナリウムアワード2023」でのグランプリ受賞など、国内外の数々のアワードに選出されているメディアアーティストの木原共。
新たな問いを人々から引き出す遊びをテーマに、実験的なゲームやインスタレーションの開発を行う木原が最初に大きな注目を集めたのは、2017年に公開した「ストリートディベーター」で同年の「WIRED CREATIVE HACK AWARD」でグランプリをとった時だ。
木原がオランダのデルフト工科大学院に在籍していた際に、「欧州の路上生活者がものごい以外の方法で尊厳を失わずに金銭を得る新しい方法を生み出せないか?」という問いのもとで制作された「ストリートディベーター」は、質問が書かれたボードと、その回答を示す2つのオプションが書かれた天秤型のツールを用いた作品。本ツールにより、通りすがりの人々に投票を呼びかけるなかで、ディベートを通じて天秤の皿にお金が投じられる。そこで行われるやりとりは「支援する者」と「支援される者」の関係ではなく、あくまで友好的な対話であり、この仕事を通じてロンドンでの路上生活を脱却した人もいる。
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その後も、陰謀論者や地球温暖化否定者のYouTubeレコメンデーションを追体験可能にする「TheirTube」や、近い将来に存在するかもしれない架空の看板や標識を、現実にARで設置できる「Future Collider」などのさまざまな作品/プロジェクトを展開してきた。
近年の木原の作品に特徴的なのは、自動運転やAIなどの先端テクノロジーがもたらす社会変化や、そうした技術と人間の関係性を「遊び」を媒介として捉え直す点にある。
例えば、木原がダニエル・コッペンと手がけた「自動運転車とぶつかる/ぶつからない方法」がある。本作品は、AIに「歩行者」と検知されないように横断歩道を渡り切る、路上を舞台にしたゲームだ。
自動運転のAIには、「エッジケース」と呼ばれる想定外の出来事に遭遇した際にエラーを起こしてしまう課題があるなかで、本ゲームでプレイヤーがゲームに勝つこと(=AIが歩行者を認識できなかった場合のエッジケースの生成)が、AIのアルゴリズムやデータセットの欠陥を補完しうるデータとなり、将来的に自動運転車の性能向上に寄与する可能性があるという。
また、『明日たちの日記』という作品は自身のカレンダーデータなどの過去のデータや、人生の価値観に関する情報を大規模言語モデルに託すことで、AIが未来のスケジュールや、今後の人生の枝分かれするシナリオを生成し、提示してくれる作品だ。
わたしたちの日々の生活のなかに入り込んでくる自動運転技術やAIによる予測といった先端テクノロジーを、木原は体験型の作品を通じて表現し、その未来に備えるための状況をつくり、人々が議論するきっかけを提供しているように感じる。
では、そんな木原は今回コラボレーターとしてどのような作品を展開してくれるのだろう?
「感情資本主義」の行く末を体験できる会話型ゲーム?
今回のDE-SILO EXPERIMENT 2024において、木原は社会学者の山田陽子とコラボレーションし、「感情資本」をテーマとした作品を制作する。
イスラエル=フランスの社会学者エヴァ・イルーズが提唱した「感情資本主義」とは、「経済的行為のエモーショナリゼーション」と「感情生活の経済化・合理化」が同時に進行する動的プロセスのことを指す。
詳細は以下の記事に譲るが、山田はそうした「感情資本主義」の概念をベースに、近代資本主義社会と感情、自殺などを研究対象にしてきた社会学者だ。
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「感情」すらも資本化されていく時代の行く末を、木原は会話型のゲームに落とし込み、多くの人々が参加できる作品として展開予定だ。
イベント当日(4/13)は、会話シミュレーションゲームを生かしたパフォーマンスと、「感情資本」という概念やその制作プロセスを解説するトークセッションが行われる。遊びやゲームを通じて研究がひらかれていくプロセスをぜひ目撃してほしい。
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木原共
メディアアーティスト/ゲーム開発者。新たな問いを人々から引き出す遊びをテーマに、実験的なゲームやインスタレーションの開発を行う。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、オランダのデルフト工科大学院のインタラクションデザイン科を修了。その後、アムステルダムに拠点を置く研究機関Waag Futurelabや米国のMozilla FoundationとAIの社会的影響に焦点を当てたプロジェクトを行う。近年の作品はアルスエレクトロニカ STARTS PRIZE (リンツ、2021年)にノミネートされたり、Victoria & Albert Museum(ロンドン、2022年)で展示された。
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