「生きているという実感」を、“現実から抜け出した”ゲーム体験により立ち上げる──アーティストコレクティブ・Keiken【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント「DE-SILO EXPERIMENT 2024」。同イベントにて制作/出演するアーティストを紹介する本シリーズの第2回で取り上げるのは、ゲームや映像作品を通じて異なる世界を経験できる作品を手がけてきたアーティストコレクティブのKeikenだ。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント
日本語の「経験」に名前の由来をもつアーティストコレクティブのKeikenは、その名の通り、観客が没入できる作品を生み出すことに長けたアーティストだ。
メキシコ、日本、ヨーロッパ、ユダヤなど様々なディアスポラ的背景を持つターニャ・クルス、ハナ・オーモリ、イザベル・ラモスの3人で活動する同コレクティブは、日本では、金沢21世紀美術館での展覧会「D X P (デジタル・トランスフォーメーション・プラネット) ―次のインターフェースへ(以下、DXP展)」や、第13回恵比寿映像祭(2021)への出展で知られている。
その作風は、ゲーム、メタバース的世界の構築、インスタレーション、xR、映像、パフォーマンスなどのメディアを駆使しながら、“フィジタル(フィジカルとデジタルを合わせた語)”な領域で近未来を試験的に体験できる作品を生み出すこと。そして、その先では、意識の本質や新しい知覚の可能性を探求しているという。
作品を通じて大事にしていることを、コレクティブの一員であるターニャ・クルスは「五感に訴え、作品の中に観客自身のスペースがあり、作品から何かを感じることができるインスタレーションー環境を創造すること」と、DXP展でのアーティスト・インタビューで語っている。
ゲームを通じて、私たちが住む世界から抜け出す経験を創り出す
金沢21世紀美術館でも展示されていたのが、世界構築プロジェクト「Morphogenic Angels(形態形成天使)」だ。
このゲームの舞台となるのは、1,000年後、あるいはもっと先の未来の世界。人々は地球外生命体や植物、動物などの他の種や生物と細胞をつくり変えられる「天使」と呼ばれる存在に進化している。
金沢21世紀美術館の展示空間には、ゲームをプレイする本人だけではなく周囲の鑑賞者がまるで映画を観るようにゲーム映像を観れるような大型のモニタと、砂とガラスの小さなプールやセル構造の座席というフィジカルなオブジェクトも配置されている。インスタレーションには、ラベンダーの香りが取り入れられており、そこは「好きなときに昼寝ができるような心地よい空間」に仕上げたという。
プレイ時間が約1時間ほどのゲームでは、自らのエネルギーを使って他者や他種と接続し、自身の意識を進化させるプロセスを体験できる。そこでは「未来における人の苦しみとは何か」「未来において人は何を望むのか」という問いが突きつけられる。こうしたゲームを制作する意図を「観客が日々の現実、私たちが住む世界から抜け出す経験を創出すること」にあると、ハナ・オーモリは前述のインタビューで語っている。
今回のDE-SILO EXPERIMENT 2024で、Keikenはインタープリター/メディア研究者の和田夏実とコラボレーションし、和田の研究に応答するかたちで新作を制作する。和田は「『生きているという実感』が灯る瞬間の探求」をテーマに研究しており、言語やコミュニケーション、表現自体を起点に、一人ひとりの内なる世界における接続と自律から立ち現れてくる「生きているという実感」を探求している。
和田は、研究を進めるなかで長島愛生園(国立ハンセン病療養所)にてフィールドワークを何度も訪れている。岡山県長島に位置する長島愛生園はかつてハンセン病患者の療養施設として利用されていた場所であり、その人々の孤立と呼応するようなかたちで、「Morphogenic Angels(形態形成天使)」では「最も重要なエネルギーは、つながる能力だ」という言葉が登場する。
和田は現在ミラノ工科大学にて研究員をしており、ベルリンやロンドンを拠点とするKeikenと対面で議論やワークショップをたびたび実施し、制作は目下進行中だ。
和田のフィールドワークでの経験や研究と、Keikenの作家性がどのように交差するのか。その成果となるインスタレーションを見に、ぜひイベント会場に足を運んでほしい。
【DE-SILO EXPERIMENT 2024のチケット購入はこちら】
Keiken
2015年設立のアーティストコレクティブ。メキシコ、日本、ヨーロッパ、ユダヤなど様々なディアスポラ的背景を持つターニャ・クルス、ハナ・オーモリ、イザベル・ラモスの3人で活動。グループ名は「経験」を由来とし、活動のあらゆる面で意識の本質と未来の探求をする。第1回 Chanel Next Prizeを受賞。最近の主な展覧会は、ヘルシンキ ビエンナーレ (フロリダ)、HAU ヘッベル アム ウーファー、ベルリン (ドイツ) (2023)、CO ベルリン (ドイツ)。現在、世界構築プロジェクト「Morphogenic Angels」を進行中。
Photograph by Callum Leo Hughes