【2023年11月刊】イリイチ『シャドウ・ワーク』文庫版、生きづらさの民俗学、言語学×ラップ……デサイロが注目したい人文・社会科学の新刊10冊
「いま私たちはどんな時代を生きているのか」──人文・社会科学領域の研究者とともにこの問いを探り、研究のなかで立ち現れるアイデアや概念の社会化を目指すアカデミックインキュベーター「デサイロ(De-Silo)」。
2023年11月に刊行の人文・社会科学領域の新刊書の中から、デサイロとして注目したい10冊をピックアップしました。
気になるタイトルがあれば、読書リストにぜひ加えてみてください。
1.及川祥平/川松あかり/辻本侑生『生きづらさの民俗学──日常の中の差別・排除を捉える』
概要(版元ウェブサイトより引用)
柳田國男の問い「何故に農民は貧なりや」から始まった自己内省の学は、今日あらたに問いをたてなおし、とにもかくにも〈しんどい〉現代社会への探求の扉をふたたび開く。
「何故我々は生きづらいのか?」
本書は、民俗学に初めて触れる読者を想定した「入門書」である。わたしたちの社会のいたるところにみられる差別や排除、「生きづらさ」というテーマを民俗学はどう考えることができるか、そしてそこに立ちあらわれる民俗学とは何か。
著者
及川祥平(おいかわ・しょうへい)
成城大学文芸学部および同大学院准教授。成城大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。研究分野は民俗学。主要な著書に『偉人崇拝の民俗学』(勉誠出版、2017年)、『心霊スポット考』(アーツアンドクラフツ、2023年)、『民俗学の思考法』(共編著、慶應義塾大学出版会、2021年)。主要な論文に「「害」という視座からの民俗学」(『現在学研究』9、2022年)ほか多数。
川松あかり(かわまつ・あかり)
九州産業大学国際文化学部講師。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。研究分野は、民俗学・文化人類学。主要業績に、『民俗学の思考法』(共編著、2021年、慶應義塾大学出版会)、「「語り部」生成の民俗誌にむけて:「語り部」の死と誕生、そして継承」(『超域文化科学紀要』23、2018年)。
辻本侑生
弘前大学地域創生本部助教。民間シンクタンク勤務を経て現職。研究分野は現代民俗学、地域社会・政策論。共著書に『津波のあいだ、生きられた村』(鹿島出版会、2019年)、『山口弥一郎のみた東北』(文化書房博文社、2022年)、『焼畑が地域を豊かにする』(実生社、2022年)、『クィアの民俗学』(実生社、2023年)。
発売日
2023年11月4日
版元
明石書店
2.イリイチ『シャドウ・ワーク』
概要(版元ウェブサイトより引用)
家事などの人間の本来的な諸活動は、市場経済を支える無払いの労働〈シャドウ・ワーク〉へと変質している。人間がシステムの従属変数となっている危機を、経済、社会、政治、知的活動などさまざまな切り口から論じ、自立・自存した生の回復を唱える。文明批評家イリイチによる現代産業社会への挑戦と警告。
著者
イリイチ(Ivan Illich)
1926~2002。ウィーン生まれの社会思想家、批評家。カトリック司祭、プエルトリコのカトリック大学副学長を務め、メ キシコに国際文化資料センターを創設。主著に『コンヴィヴィアリティのための道具』など。
発売日
2023年11月15日
版元
岩波書店
3.フェイ・バウンド・アルバーティ『私たちはいつから「孤独」になったのか』
概要(版元ウェブサイトより引用)
自分を理解してくれる人がいない、友人や伴侶が得られない、最愛の存在を喪って心にぽっかりと穴があいたような気持ちがする、老後の独り居が不安だ、「ホーム」と呼べる居場所がない――このような否定的な欠乏感を伴う感情体験を表現する語として「孤独」が用いられるようになったのは、近代以降のことである。それまで「独りでいること」は、必ずしもネガティブな意味を持たなかった。孤独とは、個人主義が台頭し、包摂性が低く共同性の薄れた社会が形成される、その亀裂のなかで顕在化した感情群なのである。
ゆえに孤独は、人間である以上受け入れなければならない本質的条件などではない。それは歴史的に形成されてきた概念であり、ジェンダーやエスニシティ、年齢、社会経済的地位、環境、宗教、科学などによっても異なる経験である。いっぽう、現代において孤独がさまざまな問題を引き起こしていることも事実であり、国や社会として解決しようとする動きが出てきている。その際まず必要となるのは、孤独を腑分けし、どのような孤独が望ましくなく、介入を必要とするのかを見極める手続きである。
2018年に世界で初めて孤独問題担当の大臣職を設置したイギリスの状況をもとに、孤独の来歴を多角的に照らし出す。漠然とした不安にも、孤独をめぐるさまざまな言説にもふりまわされずに、孤独に向き合うための手がかりとなる1冊。
著者
フェイ・バウンド・アルバーティ(Fay Bound Alberti)
1971年生まれ。文化史家。ロンドン大学キングス・カレッジ近現代史教授。専門はジェンダー、感情史、医学史。歴史学博士(ヨーク大学)。イギリス初の感情史専門の研究所であるロンドン大学クイーン・メアリー感情史センターの創立メンバーの一人。マンチェスター大学、ランカスター大学、ヨーク大学等でも教鞭をとる。著書にMatters of the Heart: History, Medicine, and Emotion(2010)、This Mortal Coil: The Human Body in History and Culture(2016)、A Biography of Loneliness: The History of an Emotion(2019〔『私たちはいつから「孤独」になったのか』神崎朗子訳、みすず書房〕)がある。
発売日
2023年11月16日
版元
みすず書房
4.小西真理子『歪な愛の倫理──〈第三者〉は暴力関係にどう応じるべきか』
概要(版元ウェブサイトより引用)
あるべきかたちに回収されないもの──暴力の渦中にある<当人>の語りから、<第三者>の応答可能性を考える。
DV(ドメスティック・バイオレンス)に代表される、暴力関係から逃れられないひとには、実際、何が起きているのか。問題系を前提とした〈当事者〉ではなく、特定の個人に注目した〈当人〉の語りから議論を始めたとき、〈第三者〉は、どのようにして応答することができるのか。本書は、「なぜ暴力関係から逃れられないのか」という問いへの通説的な見解に対して、再考を迫る。あるべきかたちに回収されない異なるエートスを探求する、刺激的な論考。
著者
小西真理子(こにし・まりこ)
1984年生まれ。2011年、立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程3年次編入。単著に『共依存の倫理』(晃洋書房、2017)。現在、大阪大学大学院人文学研究科准教授。
発売日
2023年11月17日
版元
筑摩書房
5.佐藤俊樹『社会学の新地平──ウェーバーからルーマンへ』
概要(版元ウェブサイトより引用)
マックス・ウェーバーとニクラス・ルーマン――科学技術と資本主義によって規定された産業社会の謎に挑んだふたりの社会学の巨人。難解で知られる彼らが遺した知的遺産を読み解くことで、私たちが生きる「この」「社会」とは何なのかという問いを更新する。社会学の到達点であり、その本質を濃縮した著者渾身の大作。
著者
佐藤俊樹(さとう・としき)
1963年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程退学。博士(社会学)。東京大学大学院総合文化研究科教授。比較社会学、日本社会論
発売日
2023年11月17日
版元
岩波書店
6.山本咲子『女性非正規雇用者の生活の質評価──ケイパビリティ・アプローチによる実証研究』
概要(版元ウェブサイトより引用)
未婚の女性非正規雇用者の生活の質を、ケイパビリティ・アプローチによって検討し、生活における困難を見いだし、生活の質向上のために必要な施策を提案する。ケイパビリティ・アプローチを用いた実証研究の方法論と具体例を示し、その有効性を明らかにする。
著者
山本咲子(やまもと・さきこ)
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ジェンダー学際研究専攻修了。お茶の水女子大学ジェンダード・イノベーション研究所特任リサーチフェロー。博士(社会科学)。専門分野 生活経営学。主著『持続可能な社会をつくる生活経営学』(共著)朝倉書店 2020年。「ケイパビリティ・アプローチを用いた生活主体形成の検討――未婚の女性非正規雇用者を事例として」『生活経営学研究』2020年。
発売日
2023年11月18日
版元
明石書店
7.川原繁人ほか『言語学的ラップの世界』
概要(版元ウェブサイトより引用)
日本語ラップをこよなく愛する言語学者が、韻に込められた「ことば遊び」を分析する言語学エッセイ。Mummy-D、晋平太、TKda黒ぶちへのインタビューも収載。
本文より:
学生時代の私は、ただ日本語ラップが好きだった。好きなラップを聴いているうちに、いつしか自分で韻の仕組みを分析するようになっていった。その頃は、何か見返りを求めていたわけではなく、ただただ好奇心に導かれて研究していた。しかし、そんな研究は少しずつ有名になっていき、いつの間にか自らの分析をプロのラッパーたちに披露する機会にも恵まれ、メディアに出演する機会も多く頂くようになった。
近年では、日本語ラップを大学教育に取り入れる意義を強く感じるようになり、数多くのラッパーを授業にお招きして、様々なことを言語学者として――そして大学に身を置く教育者として――考え続けている。日本語ラップから我々が学べることは、多岐にわたる。日本語の構造を見つめ直すこともできれば、アメリカの社会状況を理解することもできる。さらに、コロナ禍のようなストレスが溜まる状況で前向きになれる力ももらえる。本書では、これらの「ラップを学問する効用」について具体的に伝えていきたいと思う。
著者
川原繁人(かわはら・しげと)
2002年、国際基督教大学より学士号(教養)、2007年、マサチューセッツ大学より博士号(言語学)を取得。ジョージア大学・ラトガーズ大学 assistant professor を経て、2013年に慶應義塾大学言語文化研究所に移籍。現在、教授。専門は言語学・音声学。
近著に『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(2022年、朝日出版社)、『フリースタイル言語学』(2022年、大和書房)、『なぜ、お菓子の名前はパピプペポが多いのか?』(2023年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。義塾賞(2022年)、日本音声学会学術研究奨励賞(2016、2023年)を受賞。
Mummy-D(マミーディー)
ヒップホップ・グループRHYMESTERのラッパー、プロデューサー。1989年に宇多丸と出会いRHYMESTERを結成。日本のヒップホップ・シーンを、黎明期から開拓、牽引してきた立役者の一人。近年は益々旺盛な音楽活動に加えて、ナレーター、役者、また東京藝術大学で講師をつとめるなど、活躍が多岐にわたる。(本書では第3部に登場)
晋平太(シンペイタ)
1983年に東京で生まれ、埼玉県狭山市で育つ。日本最大規模のラップバトル「ULTIMATE MC BATTLE」で2連覇を達成するなど、数々のラップバトルで王座を獲得。自身の夢について「全員が主役になれる世の中=1億総ラッパー化計画」を掲げ、フリースタイルの伝道師として、企業や小学校、自治体などとタッグを組み、全国各地でラップの普及活動を行っている。(本書では第3部に登場)
TKda黒ぶち(ティーケーダクロブチ)
1988年生まれ。埼玉県を拠点に活動するラッパー。高校生の頃からラップを始め、テレビ朝日の人気番組『フリースタイルダンジョン』の3代目モンスターに就任。現在、テレビ朝日『フリースタイルティーチャー』に出演中。トレードマークは黒ぶち眼鏡。(本書では第3部に登場)
しあ
長崎生まれの福岡育ち、東京を中心に活動しているラッパー。18歳の時にラップに目覚める。2021年に1stアルバムをリリース、2022年に期間限定で自身の楽曲『スシロー行きたい』がスシロー全店でオンエアされるなど、等身大の言葉が特徴的なアーティスト。(本書では第3部に登場)
発売日
2023年11月20日
版元
東京書籍
8.デイヴィッド・スタサヴェージ『民主主義の人類史──何が独裁と民主を分けるのか?』
概要(版元ウェブサイトより引用)
「わたしたちが今どこにいて、これからどこへ向かうのかを理解するためには、視界を広げてデモクラシーのディープ・ヒストリー deep history に目を向ける必要がある……わたしが疑問に思ったのは、なぜヨーロッパは中国や中東と比べて根本的に異なる政治軌道をたどってきたのか、ということだった……皮肉なことだが、ヨーロッパの後進性こそが、近代デモクラシーの起こる基盤となったのである……」(本文より)
ニューロン族や中央アフリカなどの初期デモクラシー(民主)を、古代中国、メソポタミア、アステカのオートクラシー(専制)と比較することで、民主主義が生き残る条件を探求。さらには、なぜ初期デモクラシーがアングロ-アメリカにおいて近代デモクラシーに変質したのかを明らかにする。
壮大な人類学的スケールで民主主義の変貌を定量的に分析し、デモクラシーの未来をも描き出す。
著者
デイヴィッド・スタサヴェージ(David Stasavage)
ニューヨーク大学社会科学ディーンおよび政治学部ジュリアス・シルヴァー教授。同大学のロースクールおよび歴史学部にも所属している。民主主義、不平等、税制などについて多数の論文がある。著書 States of Credit: Size, Power, and the Development of European Polities (共著、Princeton University Press, 2011)、Taxing the Rich: A History of Fiscal Fairness in the United States and Europe (共著、Princeton University Press, 2016〔『金持ち課税』立木勝訳、みすず書房〕)、The Decline and Rise of Democracy: A Global History from Antiquity to Today(Princeton University Press, 2020〔『民主主義の人類史』立木勝訳、みすず書房〕)。
発売日
2023年11月20日
版元
みすず書房
9.上岡磨奈『アイドル・コード: 託されるイメージを問う』
概要(版元ウェブサイトより引用)
複雑さを解きほぐす
疑似恋愛、恋愛禁止、異性愛主義、ビジュアル、年齢……、かれらに絡まるさまざまなコードをていねいに解きほぐし、その文化を見つめ直す。すべての人に送る、現代アイドル文化の必携書。
著者
上岡磨奈(かみおか・まな)
1982年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。専攻は文化社会学、カルチュラルスタディーズ。俳優、アイドル、作詞家などを経て、アイドルとアイドルファンを対象とした研究を開始。現在はアイドルの生活や仕事、キャリアを対象とした調査、研究を行っている。共著に『アイドルについて葛藤しながら考えてみた――ジェンダー/パーソナリティ/推し』(青弓社)、『アイドル・スタディーズ――研究のための視点、問い、方法』(明石書店)、『消費と労働の文化社会学――やりがい搾取以降の「批判」を考える』など。
発売日
2023年11月21日
版元
青土社
10.ペギー・オドネル・ヘフィントン『それでも母親になるべきですか』
概要(版元ウェブサイトより引用)
産んでよかった。産まなくてよかった。私たちの感情は狭間で揺れ動く。
かつて当たり前の存在だった「子のない女性」は、いつから「解決すべき問題」になったのか。産業革命や戦争、不景気、宗教、環境問題、医療などが、いかに女性の人生を翻弄し、その選択を変化させてきたかを描き出す。社会が突き付ける選択の裏にある女性たちの語られざる思いに迫り、現代の常識から女性を解き放つ一冊。
著者
ペギー・オドネル・ヘフィントン(Heffington,Peggy O'Donnell)
作家。カリフォルニア大学バークレー校で歴史学博士号を取得。米陸軍士官学校に博士研究員として勤務後、シカゴ大学へ。ジェンダーや母性、人権等の歴史を教えるほか、エッセイや論文を多数発表。『それでも母親になるべきですか』が初の著書。グミキャンディについても多くの意見を持ち、夫のボブ、2匹のパグ、エリーとジェイクとともにシカゴに在住。
発売日
2023年11月22日
版元
新潮社
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