【2023年10月刊】「燃え尽き症候群」研究、ロビン・ダンバー新刊、「サービス労働」研究……デサイロが注目したい人文・社会科学の新刊10冊
「いま私たちはどんな時代を生きているのか」──人文/社会科学領域の研究者とともにこの問いを探り、研究のなかで立ち現れるアイデアや概念の社会化を目指すアカデミックインキュベーター「デサイロ(De-Silo)」。
2023年9月に刊行の人文・社会科学領域の新刊書の中から、デサイロとして注目したい10冊をピックアップしました。
気になるタイトルがあれば、読書リストにぜひ加えてみてください。
1.ロビン・ダンバー『宗教の起源──私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』
概要(版元ウェブサイトより引用)
進化心理学の巨人ダンバーが描く、人類と信仰の20万年。
仏教、キリスト教、ヒンドゥー教、神道……
世界の主要な宗教は、なぜ同じ時期に同じ気候帯で誕生したのか?
カルト宗教はなぜ次々と生まれ、人々を惹きつけるのか?
科学が隆盛を極める現代においても、
宗教は衰えるどころかますます影響力を強めている。
ときに国家間の戦争を引き起こすほど
人々の心に深く根差した信仰心は、なぜ生まれたのか?
そして、いかにして私たちが今日知る世界宗教へと進化したのか?
「ダンバー数」で世界的に知られ、
人類学のノーベル賞「トマス・ハクスリー記念賞」を受賞した著者が、
人類学、心理学、神経科学など多彩な視点から
「宗教とは何か」という根源的な問いに迫った、壮大なスケールの一冊。
著者
ロビン・ダンバー(Robin Dunbar)(著)
オックスフォード大学進化心理学名誉教授。
人類学者、進化心理学者。霊長類行動の世界的権威。
イギリス霊長類学会会長、オックスフォード大学認知・進化人類学研究所所長を歴任後、現在、英国学士院、王立人類学協会特別会員。世界最高峰の科学者だけが選ばれるフィンランド科学・文学アカデミー外国人会員でもある。1994年にオスマン・ヒル勲章を受賞、2015年には人類学における最高の栄誉で「人類学のノーベル賞」と称されるトマス・ハクスリー記念賞を受賞。人間にとって安定的な集団サイズの上限である「ダンバー数」を導き出したことで世界的に評価される。著書に『ことばの起源』『なぜ私たちは友だちをつくるのか』(以上、青土社)、『友達の数は何人?』『人類進化の謎を解き明かす』(以上、インターシフト)など。
小田哲(おだ・さとし)(翻訳)
発売日
2023年10月3日
版元
株式会社白揚社
2.長田華子/金井郁/古沢希代子『フェミニスト経済学: 経済社会をジェンダーでとらえる』
概要(版元ウェブサイトより引用)
フェミニズムの視点から,すべての人のウェルビーイングの実現をめざす。日本ではじめてのフェミニスト経済学のテキスト!
フェミニスト経済学は,人間のニーズ充足のための生産・提供・調達・準備・保管といった「プロヴィジョニング」のありようを分析する学問である。人間のニーズを満たすためのプロヴィジョニングを考察しようとすれば,主流派経済学がおもな分析対象としてきた市場経済の分析だけでは十分ではない。人間のニーズの充足は,世帯の中でも行われるし,国家による福祉サービスの提供も人間のニーズを満たすプロヴィジョニングである。地域コミュニティにおけるコモンズ(共有資源)の保全と利用や自家消費用の食料生産もプロヴィジョニングである。フェミニスト経済学は,世帯,国家,地域コミュニティ,市場において,どのように人間のニーズが満たされるのか,受け手と与え手のジェンダーの偏り,その提供に必要とされる労働は有償なのか無償なのかなどに着目して分析する。その際,人間は他者からケアを与えられなければ生命を保持することができない,他者に「依存した」状態で生まれることに目を向ける。私たちが生きる社会は他者からのケアを絶対的に必要としていることを前提に経済社会のありようを考えることが,フェミニスト経済学の特徴といえる。
また,フェミニスト経済学は,セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖にかかわる健康と権利)も経済のテーマととらえる。それは,人間のウェルビーイングと再生産にとって重要な要素だからである。性をめぐる関係性や人間と環境との相互作用のなかで,人間がどのように生まれ,そしてその健康がどのように維持されるかを研究することも経済学の対象となる。つまりフェミニスト経済学は,人間の脆弱性を前提に,人間のニーズを満たす財やサービスのプロヴィジョニングを分析することで,ケアを中心にすえた経済学を構想しようとしているのである。
著者
長田華子(ながた・はなこ)(編集)
茨城大学人文社会科学部准教授。お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科修了,博士(社会科学)
〈主要著作〉 『バングラデシュの工業化とジェンダー』御茶の水書房,2014年;『990円のジーンズがつくられるのはなぜ?』合同出版,2016年
金井郁(かない・かおる)(編集)
埼玉大学人文社会科学研究科教授。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程単位取得退学,博士(国際協力学)
〈主要著作〉 「人事制度改革と雇用管理区分の統合」『社会政策』第13巻第2号,2021年;「生存をめぐる保障の投資化」『現代思想』第51巻第2号,2023年
古沢希代子(ふるさわ・きよこ)(編集)
東京女子大学現代教養学部教授。大阪市立大学大学院経済学研究科博士後期課程修了,修士(経済学)
〈主要著作〉 “Land, State and Community Reconstruction,”(共著)S. Takeuchied., Confronting Land and Property Problems for Peace, Routledge, 2014;「東ティモールにおける水利システム改革とジェンダー」『大阪経大論集』第68巻第5号,2018年
発売日
2023年10月3日
版元
有斐閣
3.高晨曦『サービス論争の300年: 欲求の視点に基づく一般理論の提案』
概要(版元ウェブサイトより引用)
300年もの間続くサービス労働をめぐる論争は決着しないまま、「経済のサービス化」時代を迎えた。論争が混迷に陥る原因はサービスに関する古典学説と現代理論との「掛け違い」にある。本書では、人間の欲求に注目してサービス労働の本質を探り、古典経済学の時代から続くサービスをめぐる論争に決着をつけようとするものである。
著者
高晨曦(こう・しんぎ)(著)
1993年生まれ。サービス論、デジタル労働、欲求理論、資本主義成立史を含む政治経済学の幅広いテーマに関心がある。経済学の手法のみならず、思想史、社会史、社会学、人類学、比較政治学などの視野を入れる総合社会科学的なアプローチで、社会経済の課題を歴史的・ダイナミックに捉える。
2016年 中国・清華大学社会科学学部卒業(経済学学士)
2018年 一橋大学経済学研究科経済理論修士課程修了.修士(経済学)
2021年 一橋大学経済学研究科総合経済学博士課程修了.博士(経済学)
2021年 -2022年3月 一橋大学経済学研究科特任講師
2022年4月- 九州産業大学経済学部専任講師
発売日
2023年10月6日
版元
九州大学出版会
4.ジグムント・バウマン/リッカルド・マッツェオ『文学を称賛して 社会学と文学の密接な関係』
概要(版元ウェブサイトより引用)
現代社会学の巨人、ジグムント・バウマンと、
イタリアの編集者・エッセイスト、リッカルド・マッツェオの書簡による対話形式で、
社会学(広くは社会科学)と文学(広くは芸術)の密接な関係性を探求する
従来、相容れない分野と考えられてきた社会学と文学との関係を“二人姉妹”と表現するバウマンが、
「リキッド・モダニティ」に象徴される自身の現代社会論・現代文化論を素材に議論する。
社会学と文学の関係を論じつつ、他方で優れた現代社会(文化)論となっており、
今を生きる多くの人々にも参考になる一冊。
日本での「ジグムント・バウマン」研究の第一人者である園部氏による翻訳。
原著(In Praise of LITERATURE (2016, Polity))は、世界6言語(アラビア語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語、トルコ語)に翻訳出版され、広く世界的に読まれています。
著者
ジグムント・バウマン(Zygmunt Bauman)(著)
1925年、ポーランドに生まれ、2017年、91歳で死去。社会学者。イギリス、リーズ大学の名誉教授。邦訳書に『リキッド・モダニティ―液状化する社会』(大月書店、2001年)、『近代とホロコースト』(大月書店、2006年)、『社会学の使い方』(青土社、2016年)など他多数。
リッカルド・マッツェオ(Riccardo Mazzeo)(著)
1955年、イタリア生まれ。ボローニャ大学卒業。編集者およびエッセイスト。著書にOn Education (ジグムント・バウマンとの共著、Polity出版、2012年)など。その他翻訳書多数。
園部雅久(そのべ・まさひさ)(翻訳)
1950年、東京生まれ。上智大学名誉教授。社会学博士。著書に『現代大都市社会論―分極化する都市?』(東信堂、2001年)、『再魔術化する都市の社会学——空間概念・公共性・消費主義』(ミネルヴァ書房、2008年)など。翻訳書に『バウマン道徳社会学への招待——論文・インタビュー翻訳集』(上智大学出版、2021年)がある。
発売日
2023年10月7日
版元
ぎょうせい
5.茅根由佳『インドネシア政治とイスラーム主義―ひとつの現代史―』
概要(版元ウェブサイトより引用)
多様な宗教を包摂する「民主化の成功国」で、「不寛容」の烙印を押されたイスラーム主義者の系譜がなぜ人々を糾合できたのか。デモクラシーと排他性の間で揺れてきた彼らの活動を軸に、インドネシアにおける政治と宗教のダイナミズムを、独立期からSNSの時代まで総体的に捉え直した、俊英の力作。
著者
茅根由佳(かやね・ゆか)
1987年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科東南アジア専攻博士課程修了(2017年)。京都大学東南アジア地域研究研究所連携研究員等を経て、現在は筑波大学人文社会系助教、博士(地域研究)。
発売日
2023年10月13日
版元
名古屋大学出版会
6.大野光明/小杉亮子/松井隆志『直接行動の想像力: 社会運動史研究』
概要(版元ウェブサイトより引用)
沖縄、北九州、三里塚、六ヶ所村で、身を挺していのちと土地を守る座り込み、反戦反核行動を、暴力と断じてはならない。アナキズムの系譜をもつ直接行動が呼び覚ます想像力とは。座談会(酒井隆史+阿部小涼+編者)、論考、インタビューを収録。*インタビューは、小泉英政(三里塚)、松本麻里(横須賀)、飛田雄一(神戸)の各氏。
編者の巻頭言に続いて、座談会「運動史から考える直接行動」では、デモ・反暴力・ジェンダーなどグローバルな運動史を語りつくす。
東アジア反日武装戦線資料の徹底解読(松井)と、社会運動アーカイブズ(西淀川・公害と環境資料館)も必読。
著者
大野光明(編集)
滋賀県立大学人間文化学部教員
小杉亮子(編集)
埼玉大学教養学部教員
松井隆志(編集)
武蔵大学社会学部教員
発売日
2023年10月13日
版元
新曜社
7.清水涼子ほか『カジノ・ゲーミング事業をめぐるガバナンスの研究』
概要(版元ウェブサイトより引用)
大阪IRに国内初のカジノを導入―
カジノ導入について賛否両論の中、経済、法律、会計、監査、税務の研究者が、
成功の鍵となるガバナンスの条件を探る。
研究拠点である関西大学は、地元大阪・関西において産学官の連携に努めてきた。
大阪へのIR誘致に際し、米国・東アジアの先行国の実情を調査。
成功に必要な条件を見出し、学術界からの支援を目指す。
※2020~23年度科学研究費補助金基盤研究(C)
「カジノ・ゲーミング事業を巡るガバナンスの研究」(20K02027)の研究成果
著者
清水涼子(しみず・りょうこ)(著)
関西大学大学院会計研究科・商学部教授。公認会計士。専門は公会計および公監査。地方公共団体の会計および監査実務、ガバナンスについての研究に取り組む。
主な著作に、『地方自治体の監査と内部統制─2020年改正制度の意義と米英との比較』(同文館出版,2019)、『会社の「見方」─強い会社のマネジメントを探る』(同文館出版,2016)など。
北波道子(きたば・みちこ)(著)
関西大学経済学部教授。Ph.D.(関西大学/経済学)。専門は経済発展論。
主に1960年代から急速な経済成長で東アジアの発展を牽引してきたアジアNIEsの経済発展戦略についての研究に取り組む。
主な著作に、『台湾を知るための72章』(経済部分担当,明石書店,2022)、『交錯する台湾認識─見え隠れする「国家」と「人々」』(共編著,勉誠出版,2016)、『台湾の企業と産業』(佐藤幸人編,第5章担当,アジア経済研究所,2008)、『後発工業国の経済発展と電力事業─台湾電力の発展と工業化』(晃洋書房,2003)など。
三島徹也(みしま・てつや)(著)
関西大学大学院会計研究科教授。修士(関西大学/法学)。専門は会社法および商取引法。主に資本制度や債権者保護規制の研究に取り組む。
主な著作に、「デジタル・プラットフォーム取引における私法上の法律関係─仲立契約からの考察を中心として」『市民生活におけるコンピュータ化の新しい潮流とAI時代の幕開け(改訂版)』研究双書177冊(関西大学経済・政治研究所,2022)、「株式の担保化における法律関係と機能」『担保法制と資金調達Ⅱ』研究叢書62冊(関西大学法学研究所,2020)など。
Ron Singleton (ロン・シングルトン)(著)
ウェスタン・ワシントン州立大学教授。公認会計士。Ph.D.(ハワイ大学/経済・税務会計)。専門は、税務会計学。カジノ事業にかかわる会計・税務、税金控除および税特別措置の研究に取り組む。
主な著作に、「AACSB有資格者による会計学の協力授業の実地調査」(T.Nakamuraとの共著,JournalofHumanResourceandAdultLearning,2019)、「税額控除による税収減に係る国際比較」(T.Nakamuraとの共著,InternationalJournalofBusiness,Accounting,and Finance,2016)など。
T. Nakamura(ティー ・ナカムラ)(著)
ワットコム・コミュニティ・カレッジ客員教授。MBA(シアトルシティ大学/金融学強化)。専門は、金融・会計学。カジノ事業にかかわる会計・税務,税金控除および税特別措置の研究に取り組む。
主な著作に、「AACSB有資格者による会計学の協力授業の実地調査」(W.R.Singletonとの共著,JournalofHumanResourceandAdultLearning,2019)、「税額控除による税収減に係る国際比較」(W.R.Singletonとの共著,InternationalJournalofBusiness,Accounting,and Finance,2016)など。
発売日
2023年10月16日
版元
関西大学出版部
8.伊東剛史/森田直子『共感の共同体: 感情史の世界をひらく』
概要(版元ウェブサイトより引用)
日本でも話題となっている感情史研究。その最前線を走る研究者らによる、「共感」をテーマとした研究実践の第一歩となる論集。
著者
伊東剛史(編集)
森田直子(編集)
発売日
2023年10月20日
版元
平凡社
9.徳田剛/二階堂裕子/魁生由美子『地方発 多文化共生のしくみづくり』
概要(版元ウェブサイトより引用)
いま、日本の地方部にこそ多文化共生の標準装備を!
人口減少に悩み、外国人受け入れが不可避の課題になりつつある地方部。本書は、日本の移民政策と豊富な国内外の事例の検討を通じて、地方部における多文化共生の課題を掘り下げ、今後の態勢整備に向けた提案を果敢に試みる。
渡戸一郎(元・移民政策学会会長/明星大学名誉教授)
研究者×実務家
日本では「多文化共生」の指針のもと外国人住民の受け入れが進められているが、各地方の「現場任せ」になっているのが実情である。さらに、人的資源や組織体制、予算面での不足により、受け入れ態勢が未成熟な地域は少なくない。
本書では、多様な視点から日本の地方部における実情だけでなく、海外の事例も紹介。これから外国人住民がますます暮らしやすい地域にするための課題を考察する。
著者
徳田剛(とくだ・つよし)(著/編集)
大谷大学社会学部准教授
二階堂裕子(にかいどう・ゆうこ)(著/編集)
ノートルダム清心女子大学文学部教授
魁生由美子(かいしょう・ゆみこ)(著/編集)
愛媛大学教育学部教授
発売日
2023年10月20日
版元
晃洋書房
10.ジョナサン・マレシック『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか』
概要(版元ウェブサイトより引用)
バーンアウト文化への処方箋
「燃え尽き(バーンアウト)症候群」は仕事への不満やストレスを語るときの用語として流通しているが、その意味は正確に理解されておらず、激務の疲労や仕事への絶望に苦しむ労働者の役に立っていない。本書は、大学教授の仕事に燃え尽き、寿司職人やコインパーク管理人として生計を立てていた異色の経歴を持つ著者が、なぜ過酷な仕事に高い理想を持つのかを歴史的・心理学的に分析し、燃え尽きを解決できた個人やコミュニティーを明らかにする。
著者
ジョナサン・マレシック(著)
吉嶺英美(翻訳)
発売日
2023年10月27日
版元
青土社
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