【2023年9月刊】デヴィッド・グレーバー遺作、〈悪の凡庸さ〉問い直し、「差別する人の研究」……デサイロが注目したい人文・社会科学の新刊10冊
「いま私たちはどんな時代を生きているのか」──人文/社会科学領域の研究者とともにこの問いを探り、研究のなかで立ち現れるアイデアや概念の社会化を目指すアカデミックインキュベーター「デサイロ(De-Silo)」。
2023年9月刊の人文・社会科学領域の新刊書の中から、デサイロとして注目したい10冊をピックアップしました。
気になるタイトルがあれば、読書リストにぜひ加えてみてください。
1.門田岳久『宮本常一 〈抵抗〉の民俗学: 地方からの叛逆』
概要(版元ウェブサイトより引用)
宮本常一は敗北したのか
ポスト高度経済成長期の日本において、疲弊する離島の人びとに寄り添い、
彼らの自立を促すために奔走した宮本常一の思想や行動は
完全なる敗北だったのか。
たんなる民俗学者ではなく、地方の代弁者として活動した宮本常一の思想の核心に迫る。
柳田国男、南方熊楠、折口信夫と並ぶ民俗学界のビッグネーム――宮本常一。
本書では、斯界の巨人としてではなく、
当時広がっていた地域文化運動を構成する一個人としての宮本に着目し、
行政と地域住民とのあいだを取り持ち、運動を自律的なものへと導こうとした、
メディエーターとしての宮本常一に焦点をあて、
地方の代弁者として活動した宮本常一の思想の核心に迫る。
著者
門田岳久(かどた・たけひさ)(著)
立教大学観光学部交流文化学科准教授。1978年愛媛県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻文化人類学コース博士課程満期退学。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員、立教大学助教を経て、2015年より現職。専門は文化人類学、民俗学。
著書に、『巡礼ツーリズムの民族誌――消費される宗教経験』(森話社、2013年、日本宗教学会賞受賞)、共編著に、『民俗学の思考法――〈いま・ここ〉の日常と文化を捉える』(慶應義塾大学出版会、2021年)、『〈人〉に向きあう民俗学(叢書・〈知〉の森)』(森話社、2014年)、ほか共著多数。
researchmap.jp/kadota
発売日
2023/9/1
版元
慶應義塾大学出版会
2.小林美香『ジェンダー目線の広告観察』
概要(版元ウェブサイトより引用)
コンプレックスを刺激する脱毛・美容広告、
バリエーションの少ない「デキる男」像。
公共空間にあふれる広告を読み解き、
「らしさ」の呪縛に抵抗する。
広告と経済の関係を考え、私たちのものの見方が、どれほどそれらのイメージから影響を受けているかを理解することは、消費社会の中で私たちがどのように生活しているのか振り返ることにつながるはずです。(まえがきより)
著者
小林美香(こばやし・みか)
1973年生まれ。大阪大学文学部卒業、京都工芸繊維大学大学院修了(博士)。国内外の各種学校/機関で写真やジェンダー表象に関するレクチャー、ワークショップ、研修講座、展覧会を企画、雑誌やウェブメディアに寄稿するなど執筆や翻訳に取り組む。東京造形大学、九州大学非常勤講師。『現代思想2021年11月号』(青土社)「特集=ルッキズムを考える」や雑誌『IWAKAN』に寄稿。著書に『写真を〈読む〉視点』(単著 青弓社、2005)、『〈妊婦アート〉論:孕む身体を奪取する』(共著 青弓社、2018)。
発売日
2023/9/9
版元
現代書館
3.粟谷佳司『表現の文化研究ー鶴見俊輔・フォークソング運動・大阪万博』
概要(版元ウェブサイトより引用)
文化研究と市民運動を関わらせながら実践した鶴見俊輔。音楽シーンであると同時に市民運動でもあったフォークソング運動。国際的イベントとしてその後の日本を方向づけた大阪万博。戦後日本の表現文化と社会状況との交差のダイナミズムを捉える試み。戦後日本の表現文化の諸相から、表現文化を研究するための方法論まで網羅する。
著者
粟谷佳司(あわたに・よしじ)(著)
同志社大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程満期退学。博士(社会学)。著書に『音楽空間の社会学』(青弓社)、『限界芸術論と現代文化研究』(ハーベスト社)など。
発売日
2023/9/15
版元
新曜社
4.土屋敦/藤間公太『社会的養護の社会学: 家庭と施設の間にたたずむ子どもたち』
概要(版元ウェブサイトより引用)
近年、児童虐待が社会問題化している一方で、社会的養護のもとで暮らす子どもへの支援も注目を集めている。これまで援助の「あるべき姿」などを中心に議論されてきたが、現場ではどのような困難が経験され、施設のありようをめぐって何が問題とされているのか。
本書では、児童養護施設や母子生活支援施設、里親などを対象に、各施設のフィールドワークを積み重ね、関連する政策文書や史料を丹念に読み込む。それらをとおして、児童養護施設で求められる「家庭」のあり方、施設で過ごす子どもや職員が抱える葛藤、愛着概念の変容、発達障害と施設の関係性、母親という規範などを浮き彫りにする。
医療、教育、ジェンダーなどの多角的な視点から、子どもを養護する現場や制度が抱える規範や規律を照射して、「家族・家庭」と「施設の専門性」の間に生じるジレンマを明らかにする。
著者
土屋敦(つちや・あつし)(著/編集)
1977年、神奈川県生まれ。関西大学社会学部教授。専攻は福祉社会学、家族社会学、子ども社会学。著書に『はじき出された子どもたち』(勁草書房)、『「戦争孤児」を生きる』(青弓社)、共編著に『孤児と救済のエポック』(勁草書房)など。
藤間公太(ふじま・こうた) (著/編集)
1986年、福岡県生まれ。京都大学大学院教育学研究科准教授。専攻は家族社会学、福祉社会学、教育社会学。著書に『代替養育の社会学』(晃洋書房)、監修書に『児童相談所の役割と課題』(東京大学出版会)、分担執筆に『どうする日本の家族政策』(ミネルヴァ書房)など。
発売日
2023/9/19
版元
青弓社
5.小松佳代子『アートベース・リサーチの可能性: 制作・研究・教育をつなぐ』
概要(版元ウェブサイトより引用)
アートをベースにするとはいかなることか。最新の研究動向をとらえ、美術研究者・芸術家がアートベース・リサーチを多角的に分析。
アートベース・リサーチ(ABR)をめぐる状況は、ここ数年で大きく展開している。ABRは従来の人文社会科学の研究にアートを入れることで、言語的な記述や客観的な分析だけでは捉えきれない、人間の感情や身体的感覚に迫っていく。また、アート活動そのものが研究でもある。アートベース・リサーチの現在地がわかる一冊。
著者
小松佳代子(こまつ・かよこ)(著)
1965年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学、博士(教育学)。現在:長岡造形大学大学院造形研究科教授。主著:『美術教育の可能性─作品制作と芸術的省察』(編著、勁草書房、2018)、『モノの経験の教育学─アート制作から人間形成論へ』(今井康雄編、共著、東京大学出版会、2021)、『判断力養成としての美術教育の歴史的・哲学的・実践的研究』(編著、科学研究費研究成果報告書、2021)、Arts-Based Methods in Education in Japan(編著、Brill,2022)。主要展覧会:“Mapping A/r/tography : Exhibition, InSEA 2019 World Congress”(2019、University of British Columbia)、「ART=Research 展─探究はどこにあるのか」(企画・監修、2020、小山市立車屋美術館)、「このすく展」(2021、maison de たびのそら屋)、「Articulation─区切りと生成」(企画・監修、2022、小山市立車屋美術館)。
発売日
2023/9/20
版元
勁草書房
6.デヴィッド・グレーバー/デヴィッド・ウェングロウ『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』
概要(版元ウェブサイトより引用)
『負債論』『ブルシット・ジョブ』のグレーバーの遺作、ついに邦訳。
「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー。
考古学、人類学の画期的な研究成果に基づく新・真・世界史!
私たちの祖先は、自由で平等な無邪気な存在(byルソー)か、凶暴で戦争好きな存在(byホッブズ)として扱われてきた。そして文明とは、本来の自由を犠牲にする(byルソー)か、あるいは人間の卑しい本能を手なずける(byホッブズ)ことによってのみ達成されると教えられてきた。実はこのような言説は、18世紀、アメリカ大陸の先住民の観察者や知識人たちによる、ヨーロッパ社会への強力な批判に対するバックラッシュとして初めて登場したものなのである。
人類の歴史は、これまで語られてきたものと異なり、遊び心と希望に満ちた可能性に溢れていた。
著者
デヴィッド・グレーバー (著)
1961年ニューヨーク生まれ。文化人類学者・アクティヴィスト。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授。著書に『アナーキスト人類学のための断章』『資本主義後の世界のために――新しいアナーキズムの視座』『負債論――貨幣と暴力の5000 年』『官僚制のユートピア――テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則』『民主主義の非西洋起源について――「あいだ」の空間の民主主義』(すべて以文社)、『デモクラシー・プロジェクト――オキュパイ運動・直接民主主義・集合的想像力』(航思社)など。
デヴィッド・ウェングロウ(著)
考古学者。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ教授。
酒井隆史 (翻訳)
1965年生まれ。大阪府立大学教授。専門は社会思想、都市史。著書に『通天閣――新・日本資本主義発達史』(青土社)、『暴力の哲学』『完全版自由論――現在性の系譜学』(ともに河出文庫)など。訳書にグレーバー『負債論』(共訳)、『官僚制のユートピア』のほか、マイク・デイヴィス『スラムの惑星――都市貧困のグローバル化』(共訳、明石書店)など。
発売日
2023/9/21
版元
光文社
7.マリーケ・ビッグ『性差別の医学史 医療はいかに女性たちを見捨ててきたか』
概要(版元ウェブサイトより引用)
心疾患、骨、幹細胞、更年期、セックス、ホルモン、そして生殖。
長らく「男性の身体」だけを基準としてきた医学は、いつしかあらゆる領域に男性優位主義を浸透させ「非男性の身体」の声を聞くことなく発展した結果として、人間を測りまちがい、不平等を温存し、健康を害しつづけている。
この現状をいかに正し、医学と科学をいかに未来に導くべきか。医療をジェンダーバイアスから解放し、「すべての身体」を救うものにするための必読書。
著者
マリーケ・ビッグ(著)
社会学者。ケンブリッジ大学で博士号を取得。バイオテクノロジーと生殖医療に関する意思決定に介在する生物学的モデルと生物学者の役割を研究する。芸術と女性の身体の交差を扱った小説の執筆や、科学者やアーティストと協力して新しい社会像を提案する展示のプロデュースといった活動も行う。
片桐恵理子(かたぎり・えりこ)(翻訳)
英語翻訳者。主な訳書に『敏感すぎる私の活かし方 好感度から才能を引き出す発想術』『小児期トラウマと闘うツール 進化・浸透するACE対策』(以上、パンローリング)、『How to Decide 誰もが学べる決断の技法』(サンマーク出版)、『GONE』シリーズ(ハーパーコリンズ・ジャパン)などがある。
発売日
2023/9/21
版元
双葉社
8.田野大輔/小野寺拓也『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』
概要(版元ウェブサイトより引用)
アイヒマンを形容した〈悪の凡庸さ〉。アーレント自身は歯車のように命令に従っただけという理解を否定していたにもかかわらず、多くの人が誤解し続けている。この概念の妥当性や意義をめぐり、アーレント研究者とドイツ史研究者が真摯に論じ合う。
著者
田野大輔(たの・だいすけ)(編著)
1970年、東京都に生まれる。1998年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程(社会学専攻)研究指導認定退学。大阪経済大学人間科学部准教授等を経て、現在、甲南大学文学部教授。京都大学博士(文学)。専門は歴史社会学、ドイツ現代史。
小野寺拓也(おのでら・たくや)(編著)
1975年生まれ.東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了.博士(文学).昭和女子大学人間文化学部専任講師を経て,現在,東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授.専門はドイツ現代史.
香月恵里(かつき・えり)(著)
岡山商科大学教授
百木漠(ももき・ばく)(著)
関西大学准教授
三浦 隆宏(みうら・たかひろ)(著)
椙山女学園大学准教授
矢野 久美子(やの・くみこ)(著)
フェリス女学院大学教授
発売日
2023/9/25
版元
大月書店
9.阿久澤麻理子『差別する人の研究――変容する部落差別と現代のレイシズム』
概要(版元ウェブサイトより引用)
差別の現れ方、正当化する言説は時代とともに変わっていく。
例えば、部落差別はかつての結婚・就職ではなく、その土地に住むことに対する忌避が強く現れる。
また、昨今は「社会的弱者であることをふりかざし、福祉に甘えている。逆差別だ」などという偏向した言説も目立つ。
こうした差別の変容はなぜ、どのように起きるのか。
現代的レイシズムを基点に、差別「される側」ではなく「する側」の構造をあきらかにする。
著者
阿久澤麻理子(あくざわ・まりこ)(著)
大阪公立大学人権問題研究センター教授。1963年生まれ。上智大学法学部国際関係法学科卒業。奈良教育大学教育学研究科修士課程修了。大阪大学人間科学研究科博士後期課程修了(人間科学博士)。教育学・法学・社会学の学際的視点から、人権教育および変容する差別について研究。主な著書に、『フィリピンの人権教育――ポスト冷戦期における国家・市民社会・国際人権レジームの役割と関係性の変化を軸として』(解放出版社、2016年/単著)、『地球市民の人権教育 15歳からのレッスンプラン』(解放出版社、2015年/共著)。
発売日
2023/9/28
版元
旬報社
10.吉田寛『デジタルゲーム研究』
概要(版元ウェブサイトより引用)
日本のゲーム研究を牽引する著者の主要論考をすべて集成
電子回路をもつゲームであるデジタルゲームを知覚や認知、ゲームプレイ、メディア、音、eスポーツ、文化資源などの視点から多面的に論じつつ、さらには大塚英志と東浩紀による「ゲーム的リアリズム」論争をも詳細に跡付ける、日本のゲーム研究を牽引する著者によるゲームを考えるための必読文献。
著者
吉田寛(よしだ・ひろし)(著)
東京大学大学院人文社会系研究科准教授
発売日
2023/9/29
版元
東京大学出版会
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