【2023年7月刊】ピケティ最新刊、サンスティーンの同調圧力論、AIの政治哲学、負効率の経済学……デサイロが注目したい人文・社会科学の新刊10冊
「いま私たちはどんな時代を生きているのか」──人文/社会科学領域の研究者とともにこの問いを探り、研究のなかで立ち現れるアイデアや概念の社会化を目指すアカデミックインキュベーター「デサイロ(De-Silo)」。
2023年6月に刊行(予定)の人文・社会科学領域の新刊書の中から、デサイロとして注目したい10冊をピックアップしました。
気になるタイトルがあれば、読書リストにぜひ加えてみてください。
1. M.クーケルバーク『AIの政治哲学』
概要(版元ウェブサイトより引用)
AI倫理と同様に、不平等・民主主義・権力・ポストヒューマニズムに関する問題に焦点を当て、人工知能を理解する上で社会的・政治的理論の重要性を提示。前著同様、AIに対する単なる警告や安易な非難を超え、AIの政治についてどう語ればいいのかを分かりやすく、かつ前著よりも掘り下げて解説。人工知能は本質的に政治的であり、人々が関心を寄せる人種差別、気候変動、民主主義と監視社会などの政治問題は、AIをはじめとする技術的発展に照らして、新たな緊急性と意味を持つようになっている。本書は政治哲学というユニークな視点を通して、AIの本質的な政治性を明らかにし、AIという権力によってもたらされる課題に対処するための、豊かな概念的ツールボックスを提供する。
著者
M. クーケルバーク (著)
ウィーン大学哲学部メディア・技術哲学分野教授。バーミンガム大学博士。イギリス・デモンフォート大学コンピューターと社会的責任研究センター非常勤教授も兼務。1975年ベルギー生れ。国際技術哲学会会長なども歴任。AIやロボットに関する倫理学、哲学の第一人者。
直江清隆(なおえ・きよたか)(翻訳)
1960年埼玉県生まれ。東京大学大学院理学系研究科(科学史・科学基礎論)博士課程単位取得退学。博士(文学)。東北大学大学院文学研究科教授。専攻:哲学、思想史、科学論
発売予定日
2023/7/3
版元
丸善出版
2.綾屋紗月『当事者研究の誕生』
概要(版元ウェブサイトより引用)
障害者運動、自助グループなどに淵源をもつ当事者研究。その系譜と方法を、著者自らの自閉スペクトラムの当事者研究を振り返りながら探ってゆく。周縁化された経験への応答として当事者研究の誕生をとらえることで、未来に受け継ぐべきものを展望する試み。
著者
綾屋紗月(あやや・さつき)(著)
東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
発売予定日
2023/7/4
版元
東京大学出版会
3.広野彩子『世界最高峰の経済学教室』
概要
第一級の経済学者が、経済学を、世界を、社会を、人間を語る!
ベッカー、セイラー、アリエリー、ミルグロム、ロス、リスト、ヘックマン、バナジー、アセモグル、スティグリッツ、ロドリック、ラジャン――。ノーベル賞受賞経済学者からその有力候補者まで。『日経ビジネス』経済学担当記者が世界トップクラスの著名経済学者にインタビュー、あわせて研究内容・背景を解説。現代経済の課題、その解決を目指す経済学の最前線の動向をビビッドに伝えます。
人的資本論、行動経済学、組織の経済学、マーケット・デザイン、教育、開発経済学、グローバル経済、政治と経済との関わり、イノベーション、グローバリゼーションなど、多様な経済分野について、それぞれの分野を代表する経済学者が、現代社会の直面する問題に経済学はどう向き合っているのか、解決に向けてどのようなヒントが得られるのか、研究の動機、成果、社会における役割、政策への提言などを率直に、自在に、語ります。
現代を代表する経済学者たちの率直で平易な言葉からは、経済学という人間行動の探究が、時代を超えて社会を変える力を持つことが実感できます。また、インタビューとともに、各経済学者の研究のバックグランド、個性などを十分に紹介。経済学のパワーを知り、経済学をより身近に感じられる教養書です。
著者
広野彩子(ひろの・あやこ)(編集/著/文)
1993年早稲田大学政治経済学部経済学科卒。米プリンストン大学大学院修了(MPP、公共政策修士)朝日新聞記者を経て日経ビジネス記者に。2013年から日経ビジネス副編集長。2016年から2018年まで日本経済新聞社の英文媒体Nikkei Asian Review(現Nikkei Asia)に出向、手がけた特集が2017年、アジア出版者協会賞(SOPA)最優秀賞受賞。2022年4月から慶応義塾大学総合政策学部特別招聘教授に就任。2023年4月からRIETIコンサルティングフェロー。
発売予定日
2023/7/6
版元
日経BP 日本経済新聞出版
4.レフ・マノヴィッチ『ニューメディアの言語 ――デジタル時代のアート、デザイン、映画』
概要(版元ウェブサイトより引用)
デジタル・テクノロジーの登場と進展は、既存のメディアを変えただけでなく、独自のメディアも生み出した。それは1990年代からいっそう顕著となる。本書は、〈ニューメディア〉を特徴づける原則を抽出し、デジタル・マテリアリズムとでも呼ぶべき方法で、体験を構成する諸概念を鮮やかに分析。また同時に、視覚文化の変貌を歴史的に位置づけていく。ニューメディアにおいては、いかなる論理がその発展を駆動しているのか、そして映画に代表される旧来の文化的形態との連続と断絶とは──。犀利な視線を通して新たな美学が示される。マーシャル・マクルーハン以降、最も示唆に富むメディア史。
著者
レフ・マノヴィッチ(著)
1960年モスクワ生まれ。ニューメディアの理論家・批評家・アーティスト。現在、ニューヨーク市立大学大学院センター教授。美術、建築、コンピュータ・プログラミングを学んだ後、1981年にニューヨークに移る。CGのオペレーターとして働きつつ、実験心理学、美術史、映画理論などを学び、1993年にロチェスター大学から博士号を取得。著書・論文多数。
堀潤之(ほり・じゅんじ) (翻訳)
1976年東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得。関西大学文学部教授。専門は映画研究・表象文化論。
発売予定日
2023/7/10
版元
筑摩書房
5.三牧聖子『Z世代のアメリカ』
概要
「弱いアメリカ」しか知らない世代の、社会変革の想像力とは?
機能不全に陥る民主主義、「保守」化する社会、脆弱な社会保障、拡大する経済格差──
戦後国際秩序の盟主としてのアメリカが今多くの難題を抱え、転換期を迎える中で、人口の2割を占める米国のZ世代は、社会変革の主体として注目を集めている。
テロとの闘いの泥沼化や金融危機など、自国の「弱さ」を感じながら育った彼らにとっては、機能不全に陥る民主主義、拡大する経済格差、脆弱な社会保障こそがアメリカの「現実」だ。
長期的には政治・外交にも影響を及ぼすと見られる彼らは今、
どのような価値観や対外政策への志向を持ち、アクションを起こしているのだろうか?
米中対立、反リベラリズムからジェンダー平等、レイシズムまで。
気鋭の国際政治学者が、アメリカの今と未来をさまざまな角度から描き出し、
私たちの社会や政治の想像力を広げる渾身の書。
著者
三牧聖子(みまき・せいこ)(著)
1981年生まれ。国際政治学者、同志社大学大学院准教授。東京大学教養学部卒業、同大学院総合文化研究科博士課程修了。米ハーバード大学日米関係プログラム・アカデミックアソシエイト、高崎経済大学准教授などを経て現職。専門はアメリカ政治外交史、平和研究。著書に『戦争違法化運動の時代』(名古屋大学出版会)、共著に『私たちが声をあげるとき――アメリカを変えた10の問い』(集英社新書)、共訳書に『リベラリズム 失われた歴史と現在』(青土社)がある。
発売予定日
2023/7/10
版元
NHK出版
6.トマ・ピケティ『自然、文化、そして不平等 ──国際比較と歴史の視点から』
概要(版元ウェブサイトより引用)
世界的ベストセラー『21世紀の資本』のトマ・ピケティが、「格差」について考察。
「r>g」の衝撃から10年。戦争、気候危機、経済不安などを受け、世界は”第二次ピケティ・ブーム”へ。その最新思想エッセンスを、ピケティみずからコンパクトな一冊にまとめたのが本書である。
・「社会は平等に向かうべき」との思想はいつ始まったのか
・所得格差が最も少ない地域、最も多い地域は?
・「所得格差」と「資産格差」について
・累進課税制度の衝撃
・世界のスーパーリッチたちの巨額税金逃れ問題について
・ジェンダー格差をどう考えるか?
・環境問題の本質とは、「自然資本の破壊」である
・炭素排出制限量において、取り入れるべきアイデア
・「戦争や疫病が平等を生む」という定説は本当か
──「持続可能な格差水準」は、存在するのだろうか?
著者
トマ・ピケティ (著)
フランス国立社会科学高等研究院の研究所長、パリ経済学校の教授、ならびにグローバル不平等研究所の共同主宰者。とくにLe capital au XXIe siècle (2013)(山形浩生・守岡桜・森本正史訳『21世紀の資本』みすず書房、2014年)、 Capital et Idéologie (2019)、Une brève histoire de l’égalité (2021)の著者として知られる。
村井章子(むらい・あきこ) (翻訳)
翻訳家。上智大学文学部卒業。訳書 ジョン・スチュワート・ミル『ミル自伝』(2008)、ポール・コリアー『収奪の星』(2012)、ジョン・ルカーチ『歴史学の将来』(2013、以上みすず書房)、ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』(2008)、カーメン・M・ラインハート、ケネス・S・ロゴフ『国家は破綻する』(2011、以上日経BP社)、サイモン・ジョンソン/ジェームズ・クワック『国家対巨大銀行』(2011、ダイヤモンド社)、ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』(2012、早川書房)、シェリル・サンドバーグ『LEAN IN』(2013、日本経済新聞出版社)他。
発売予定日
2023/7/11
版元
文藝春秋
7.児玉聡『予防の倫理学:事故・病気・犯罪・災害の対策を哲学する (叢書・知を究める)』
概要(版元ウェブサイトより引用)
病気、犯罪、災害に対する予防的介入の重要性は、今日ますます認識されるようになっているが、政府や社会による予防的介入については、個人の自由との衝突の可能性をはじめとする様々な問題があるため、倫理的な検討が欠かせない。本書では、疾病予防、防犯、防災に関わる具体的な事例の検討を通して、その予防活動の概要と倫理的な問題点を分析し、それを踏まえて予防活動全般の構造や理論を明らかにすることで「予防の倫理学」の確立を試みる。
著者
児玉聡(こだま・さとし)(著)
1974年:大阪府生まれ。2002年:京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。2006年:博士(京都大学,文学)。現在:京都大学大学院文学研究科教授。主著 『功利と直観──英米倫理思想史入門』勁草書房,2010年。『実践・倫理学』勁草書房,2010年。『COVID-19の倫理学』ナカニシヤ出版,2022年。
発売予定日
2023/7/24
版元
ミネルヴァ書房
8.ロバート・D・パットナム『上昇(アップスウィング): アメリカは再び〈団結〉できるのか』
概要(版元ウェブサイトより引用)
過去百年から未来への上昇へのヒントを探る
緻密な統計分析と幅広い領域を見渡すダイナミックな論理展開で、現代アメリカにおける格差拡大の背景と社会関係資本〈ソーシャルキャピタル〉の重要性を論じてきたR・D・パットナム。
『孤独なボウリング』『われらの子ども』などのベストセラーに次ぐ本書では、気鋭の作家S・R・ギャレットの協力のもと、アメリカの過去100年における「われわれ(We)」性の上昇と下降が描く逆U字曲線に着目する。
19世紀末には極端な個人主義だったアメリカ社会が、約半世紀をかけて徐々に差別と格差を縮小させ、利他性とコミュニティ志向を強めたのち、1960年代をピークに再び下降して現在の排他的な差別・格差社会に至るまでの大きな流れを、政治・経済・社会・文化・人種・ジェンダーなどさまざまな角度から検証。危機的状況にある現在のアメリカが再び〈上昇〉するためのヒントを探る。
著者
ロバート・D・パットナム(Robert D. Putnam)
1941年米国ニューヨーク州ロチェスター生まれ。1970年にイェール大学で学位取得。ミシガン大学を経て、現在ハーバード大学教授。この間ハーバード大学ケネディ行政大学院学長、米国政治学会会長等を歴任、またヨハン・スクデ政治学賞や米国人文科学メダルを受賞した。既刊の邦訳書として『哲学する民主主義』(NTT出版、2001年)、『孤独なボウリング――米国コミュニティの崩壊と再生』(柏書房、2006年)、『流動化する民主主義』(ミネルヴァ書房、2013年、編著)、『アメリカの恩寵――宗教は社会をいかに分かち、結びつけるのか』(柏書房、2019年、共著)がある。
シェイリン・ロムニー・ギャレット(Shaylyn Romney Garrett)
作家、社会起業家。ハーバード大学で行政学の学位を取得。ロバート・D・パットナムとデヴィッド・E・キャンベルの共著書『アメリカの恩寵』(柏書房、2019年)への寄稿をはじめ、多くのメディアで精力的に執筆、講演を行なうとともに、さまざまな起業、組織へのコンサルティングを手掛けている。社会起業家としてはアスペン研究所の主宰する「Weave, The Social Fabric Project」の創設に貢献し、シチズン大学のCivic CollaboratoryやBraver Angels Scholars Councilのメンバーとしても活動している。
柴内康文(しばない・やすふみ)
1970年千葉市生まれ。1994年東京大学文学部卒、1999年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得。同志社大学社会学部准教授を経て、現在東京経済大学教授。専門はメディア論、コミュニケーション論。著書に『デジタル情報社会の未来(岩波講座現代第9巻)』(岩波書店、2016年、共著)、『ソフト・パワーのメディア文化政策』(新曜社、2012年、共編著)、翻訳書に『孤独なボウリング――米国コミュニティの崩壊と再生』(柏書房、2006年)、『われらの子ども――米国における機会格差の拡大』(創元社、2017年)、『アメリカの恩寵――宗教は社会をいかに分かち、結びつけるのか』(柏書房、2019年)などがある。
発売予定日
2023/7/27
版元
創元社
9.キャス・サンスティーン『同調圧力 デモクラシーの社会心理学』
概要(版元ウェブサイトより引用)
同調はどのようにして生じるのか? カスケードや集団極性化に基づきながら、デモクラシーの社会心理を描いた記念碑的著作。
著者
キャス・サンスティーン(著/文)
ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、法哲学、行動経済学など多岐におよぶ。1954年生まれ。ハーバード大学ロースクールを修了した後、アメリカ最高裁判所やアメリカ司法省に勤務。81 年よりシカゴ大学ロースクール教授を務め、2008 年より現職。オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官を務めた。18 年にノルウェーの文化賞、ホルベア賞を受賞。著書に『ナッジで、人を動かす──行動経済学の時代に政策はどうあるべきか』(田総恵子訳、NTT出版)ほか多数、共著に『NOISE──組織はなぜ判断を誤るのか?』(ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー共著、村井章子訳、早川書房)ほか多数がある。
永井大輔(ながい・だいすけ)(翻訳)
1974年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。2003年から05年まで英オックスフォード大学に留学。法政大学および武蔵大学兼任講師。専門は十九世紀アイルランド史
髙山裕二(たかやま・ゆうじ)(翻訳)
1979年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。明治大学政治経済学部准教授。専門は政治学・政治思想史。『トクヴィルの憂鬱』(白水社)で渋沢・クローデル賞、サントリー学芸賞を受賞
発売予定日
2023/7/31
版元
白水社
10.水野勝之/土居拓務『負効率の経済学 マイナスからプラスを生む思考のすすめ』
概要(版元ウェブサイトより引用)
経済学は効率性を重視する学問。しかし不効率や非効率、時に負効率が連続する現実世界で、本当に役立っているのか。本書では、従来の経済学とは逆転の発想で、世の中の負効率な事象に焦点を当て、そこに経済理論的な考えを導入してマイナスをプラスに転じる考え方を伝授する。
著者
水野勝之(みずの・かつし)(編集)
明治大学商学部教授。博士(商学)。専門は計量経済学、理論経済学。
土居拓務(どい・たくむ)(編集)
農林水産政策研究所研究員、一般社団法人パイングレース設立時理事・事務局長、明治大学商学部兼任講師。専門は計量経済学、行動経済学。
発売予定日
2023/7/31
版元
昭和堂
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