現代では「感情」すらも、資本主義システムの中に組み込まれてしまっています──「感情資本」をキーワードに、働く人のメンタルヘルスからハラスメント、自殺問題まで幅広く研究する社会学者・山田陽子さんはそう語ります。「いまどんな時代を生きているのか?」をアカデミアの知を頼りに探っていくプロジェクト「De-Silo」。今回のプロジェクトで山田さんは「ポスト・ヒューマン時代の感情資本」をテーマに探究を進めていきます。 ポスト・ヒューマン時代の感情資本 by 山田陽子さん 現在、多くの職場で、感情を抑え込んだり無かったことにするのではなく、セルフコントロールに基づき上手に活用することが、生産性やモチベーションの維持に役立ち、自己の成長や人脈の拡大につながるとの考え方が一般化している。アンガーマネジメント、心理的安全、レジリエンス、「ファンベース」など、人びとの共感や愛着や信頼を原資にするビジネスモデルやマーケティングの手法、感情管理の技法を活用した人的資源管理や職場のリスク管理も顕著である。一方、家庭や親密な領域では、公正で公平な家事育児の分担やシャドウワークの可視化と支払い要求、時間の効率的な使い方、教育投資とリターンの予測、AI搭載マッチングアプリを介して効率よく相手に出会いたいという欲望など、私的で情緒的なつながりの範疇とみなされてきた事柄が合理性や効率性、公平性や正当性という基準によって測られ、査定されるようになっている。このように「経済的行為のエモーショナリゼーション」と「親密性の合理化」が同時に進行する動的プロセスをイスラエル=フランスの社会学者エヴァ・イルーズは「感情資本主義」と呼んだ。本研究では、感情資本、「エモディティ・感情商品」、「ネガティブな関係性」をキーワードに、合理的なものと感情的なものの結びつきを解きほぐす。経済発展と技術革新が人間の感情や他者とのコミットメントを巻き込んだ結果、今何が生じているのかについて考察し、その未来を展望する。
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現代では「感情」すらも、資本主義システムの中に組み込まれてしまっています──「感情資本」をキーワードに、働く人のメンタルヘルスからハラスメント、自殺問題まで幅広く研究する社会学者・山田陽子さんはそう語ります。「いまどんな時代を生きているのか?」をアカデミアの知を頼りに探っていくプロジェクト「De-Silo」。今回のプロジェクトで山田さんは「ポスト・ヒューマン時代の感情資本」をテーマに探究を進めていきます。 ポスト・ヒューマン時代の感情資本 by 山田陽子さん 現在、多くの職場で、感情を抑え込んだり無かったことにするのではなく、セルフコントロールに基づき上手に活用することが、生産性やモチベーションの維持に役立ち、自己の成長や人脈の拡大につながるとの考え方が一般化している。アンガーマネジメント、心理的安全、レジリエンス、「ファンベース」など、人びとの共感や愛着や信頼を原資にするビジネスモデルやマーケティングの手法、感情管理の技法を活用した人的資源管理や職場のリスク管理も顕著である。一方、家庭や親密な領域では、公正で公平な家事育児の分担やシャドウワークの可視化と支払い要求、時間の効率的な使い方、教育投資とリターンの予測、AI搭載マッチングアプリを介して効率よく相手に出会いたいという欲望など、私的で情緒的なつながりの範疇とみなされてきた事柄が合理性や効率性、公平性や正当性という基準によって測られ、査定されるようになっている。このように「経済的行為のエモーショナリゼーション」と「親密性の合理化」が同時に進行する動的プロセスをイスラエル=フランスの社会学者エヴァ・イルーズは「感情資本主義」と呼んだ。本研究では、感情資本、「エモディティ・感情商品」、「ネガティブな関係性」をキーワードに、合理的なものと感情的なものの結びつきを解きほぐす。経済発展と技術革新が人間の感情や他者とのコミットメントを巻き込んだ結果、今何が生じているのかについて考察し、その未来を展望する。