バンド・んoonが哲学者・柳澤田実の研究に応答して生まれた、新曲「NANA」とライブパフォーマンス【DE-SILO EXPERIMENT 2024 プログラム紹介】
DE-SILO EXPERIMENT 2024にて体験できるプログラムの詳細と背景意図を紹介する本シリーズ。今回取り上げるのは、哲学者・柳澤田実が設定した「『私たち性 we-ness』の不在とその希求」という研究テーマに対して、バンド・んoonが楽曲制作とライブパフォーマンスという形で応答するプログラムだ。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント。
バンド「んoon」は4/14に、制作した楽曲のパフォーマンス、そして哲学者・柳澤田実とのトークセッションに出演する。
参加希望の方は下記ウェブサイトから「DAY2 パフォーマンスチケット」の購入を。
研究者とアーティストの協働により生み出された作品展示やパフォーマンスが展開される「DE-SILO EXPERIMENT 2024」。
本イベントに参画する研究者の一人である、哲学者・柳澤田実が設定した研究テーマは「『私たち性 we-ness』の不在とその希求」だ。
政治の不在以前の「私たち性 we-ness」の喪失こそ、今日の日本人が置かれた状況ではないだろうか。
日本社会における個人主義や自己責任論、オタク的な個人消費の普及は、新自由主義を政治家から吹聴されたからというよりむしろ、多くの日本人が「私たち」である感覚を持てず、「私」とそのささやかな延長しかわからないという状況から来ていると予想する。
「私たち」という実感を持てない日本人は、国のために戦わないだろうが(ナショナリズムの不在)、同時に他人を助けること(道徳)にも無関心で未来の子供たちために投資すること(長期的展望)にも乏しい。「私たち」なき「私」は、多くの場合外部も超越性も持たないため、実は相当脆弱で、自分が愛着する対象によってかろうじて自己を立てることしかできない。
他方で今日の様々なジャンルでのファンダム形成、ヒップホップの流行、キリスト教福音派の若年層への拡大には、どこかで超越性に基礎付けられた「私たち」への渇望が見え隠れするようにも感じる。
こうした日本人の「私たち」感覚の喪失と掘り起こしを、イメージのアーカイヴとフッテージによって顕在化させ、他者と共同する中間領域がすっぽりと抜けた2020年代の日本人の「セカイ」を作品として記録し、希望的には「私たち」が生成する兆しを指し示すことを目指す。
※研究テーマの背景を伺ったインタビュー記事:
“ねじ伏せない”社会変革のため、「私たち」の感覚にリアリティを付与する──哲学者・柳澤田実
このテーマに応答するのが、ボーカル、ベース、キーボード、ハープというユニークな編成にて活動するバンド「んoon」だ。
参考記事:“崩壊したアンサンブル”を奏でるバンドは、「私たち性 we-ness」をどう眼差すのか?──バンド・んoon【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
んoonは今回のDE-SILO EXPERIMENT 2024に際して、「NANA」という楽曲を制作した。
制作プロセスでは、次のようなことが重視されたという。
・作品の説明がなくても、耳を委ねられるような強度があること(ノリノリであること)
・作品の説明を経ると聴くものの聴取の体験がさらに変化すること(ノリノリであること)
んoonは、前掲のようにユニークな編成にて活動しており、そのジャンルを定義しにくいバンドだ。その状態を「崩壊したアンサンブル」と指摘されたこともある同バンドの輪郭は、メンバー個々=「私性 I-ness」ではなく、「彼/彼女たち性 they-ness」でもないものである。今回の楽曲「NANA」は、そんなバンドの在り方や佇まいそのものの構造が反映された楽曲になっている。
同バンドのリーダーを務めるベーシストの積島直人は本楽曲の特徴を次のように記述する。
「『7拍のベースリフ』『4小節で円環するハープ』『3拍+4拍のキーボード』『28小節で一周するリズム』『2文字/3文字の言葉とメロディ』といった、輻輳する各パートの音が寄る辺なく並走していく。どれを聞いてもどれかとはズレていく感覚が常にあるが、かといって並走音と全く切り離されてもいない(並走音がなければズレの感覚もない)。全く異なっているのでもなく、全く同じところを見ているのでもないので、演奏中はなにをやりとりしているのかわからなくなる。無理やり楽譜に起こせないこともない、無理やり解読できないこともないテクスト群にある『掬いとれなさそうな澱の部分』を『私たち性 we-ness』と呼べるのかもしれない」
本楽曲は、4月10日にデジタルリリースされ、同月14日のDE-SILO EXPERIMENT 2024 DAY2 17:30~18:00にWALL&WALLにて行われる、んoonによるライブパフォーマンスにて初披露となる。
またパフォーマンスに続く18:00~18:30には、んoonと柳澤が制作のプロセスを振り返りながら、研究“知”とアートの交差から何が立ち現れたのかを語るトークセッションも開催される。また、隣接するOMOTESANDO MUSEUMでは、柳澤の研究成果も展示予定だ。
積島はイベント当日について「会場で聞く際は、んoonのそれぞれの楽器に(どれでもよいです)耳をそばだてて私の輪郭が剥落しながらも、複数形になる感覚を体験していただきたい」と言葉にしている。研究とアートが交差することに生まれる新たな景色を目撃するために、ぜひイベントに足を運んでほしい。
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