音楽というメディアの力を通じて描く「『生きているという実感』が灯る瞬間」──シンガーソングライター/プロデューサー・マイカ・ルブテ【DE-SILO EXPERIMENT 2024アーティスト紹介】
4名の研究者と11組のアーティストがコラボレーションして新作を制作し、「生の実感とリアリティ」に迫っていく2daysイベント「DE-SILO EXPERIMENT 2024」。同イベントにて制作/出演するアーティストを紹介するシリーズの今回は、先進的なエレクトロニックミュージックとポップなメロディラインを共存させた作風が特徴的なアーティスト・マイカ・ルブテを紹介する。
DE-SILO EXPERIMENT 2024
【4/13~14開催】小説から音楽、映像、メディアアートまで。研究者とアーティストのコラボレーションにより、研究知を起点に「生の実感とリアリティ」を探る2daysイベント
アーティストのマイカ・ルブテは4/13に出演し、楽曲制作とライブパフォーマンスを披露する。参加希望の方は下記ウェブサイトから4/13の「Performance Ticket」購入を。
先進的なエレクトロニックミュージックとポップなメロディラインを共存させた楽曲が特徴的なアーティスト・マイカ・ルブテ。
これまでに、agnes b.、SHISEIDO、Mercedes Benzといったブランドに楽曲提供したり、2022年には音楽におけるジェンダーの公平性促進を目指したSpotifyのプログラム「EQUAL Japan」のアンバサダーに選出され、New York Times Squareの看板広告を飾るなど、音楽シーンを越境し、世界から注目されるアーティストだ。
国内外のアーティストや企業とのコラボレーション実績も多数ある彼女だが、その制作スタイルは実に“等身大”なものだ。過去のインタビューでは、楽曲制作のこだわりについて、「自分がほんとに聴きたい曲を作る、自分に正直に嘘の無いように作ること」だと語っている。
たとえば、2019年に発表したアルバム『closer』は「自分の内面に相手を引き込むための作品」だという。表面から見ただけでは見えてこないことや、本当に近づいた時にしか分からないような感覚を音楽を通じて表現することを目指したという。いまの時代を生きる上での希望や葛藤を、たとえそれが言語化できないようなものであれど、純度高く表現するのが彼女のスタイルといえるだろう。
さらに、彼女は自身の表現のアップデートに向けて実験的な活動も展開する。2020年には先鋭的なアーティストにフォーカスしたイベント「MUTEK.JP 2020」でもパフォーマンスを披露している。また、2024年2月には高久めぐみ著「そてつの笛」にインスピレーションを受けた作品「Piano Work: そてつの笛、2024年の石ころ(試作)」を発表している。1962年に発行されて現在は絶版となっている本書が描く詩情溢れる幻想的な世界をピアノの旋律にて表現した作品だ。
最先端のテクノロジーを取り入れたり、バックグラウンドの異なるさまざまな人々との対話を重ねたりと、楽曲の制作段階からオルタナティブなアプローチをとっているのだ。
音楽というメディアを通じて浮かび上がる「生きているという実感」
マイカは、今回のDE-SILO EXPERIMENT 2024で、インタープリター・メディア研究者の和田夏実とコラボレーション。研究への応答として制作した楽曲の発表とライブパフォーマンスを行う。和田は「『生きているという実感』が灯る瞬間の探求」をテーマに研究しており、言語やコミュニケーション、表現自体を起点に、一人ひとりの内なる世界における接続と自律から立ち現れてくる「生きているという実感」を探求している。
今回発表される楽曲の制作過程でマイカは、和田のフィールドワーク先である長島愛生園(国立ハンセン病療養所)を訪れた。岡山県長島に位置する長島愛生園はかつてハンセン病患者の療養施設として利用されていた場所だ。楽曲では、その土地に残る記録や現地に住む人々との交流を通じて感じた、自身の感情や生の実感が表現される。
2023年にミニ・アルバム『mani mani』をリリースした際にマイカは、いまの時代を音楽を通じて表現することの意義について、アルバムのコンセプトを交えながら次のように語っている。
「母親になって改めて思うのは、子どものためにも未来をよりよいものにしていきたいということ。ただ、その気持ちが大きくなるにつれて、社会の変わらなさに打ちひしがれることもあります。こうして話している間にも、インターネットやテレビでは不穏なニュースが次から次に報道されていますよね。そんな葛藤を重ねてたどり着いたのが、未来を豊かにするためのひとつの答えとしての『まにまに』なんです。
確かに日々を生きるなかでは暗いニュースばかりが目立つけれど、戦国時代とかと比べるといまの社会の状態はよくなっていると思うんですよね。だから短期的に見ても意味のないと思えることでも、よりよい未来に向けて行動を続けていけばどこかで突破口のようなものが見つかるはず──。わたしは『音楽は人の心持ちを変える力をもつメディア』だと思っているからこそ、そんなポジティブなエネルギーが人々に少しでも伝わっていけばうれしいなと思っています」
自身の感じ取った等身大の感情を、より良いものにしていくためのポジティブなエネルギーに変え、伝搬させていくのがマイカの作風の大きな魅力のひとつだ。
マイカは長島愛生園での経験や和田との対話をどのように解釈し、表現へと落とし込んだのか? 研究とアートが交差することに生まれる新たな景色を目撃するために、ぜひイベントに足を運んでほしい。
【DE-SILO EXPERIMENT 2024のチケット購入はこちら】
Maika Loubté(マイカ・ルブテ)
東京在住のSSW/音楽プロデューサー/DJ。幼少期から十代を日本パリ香港で過ごす。高校卒業後、ビンテージアナログシンセサイザーに出会う。先進的なエレクトロニックミュージックを基軸としながら、テクスチャーをはぎ取ったオーセンティックな「歌」そのものを重要視している。国内外のアーティストとのコラボレーションやサウンドプロデュース、CMへの楽曲提供、リミックスなど多岐にわたって活動中。2020年、自身の楽曲である「Show Me How」がマツダの新型車「MAZDA MX-30」のテレビCMに大々的にフィーチャーされ、自身も出演した。2023年、最新作「mani mani」リリース。
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