【2024年刊】人文・社会科学の博論書籍化リスト──デサイロが注目する29冊
間もなく終わりを迎える2024年。今年もたくさんの人文・社会科学の書籍が刊行されました。
中でも博士論文をベースとした書籍は、並々ならぬ情熱のもとで、研究“知“の継承と更新を行う大作ばかり。広く売り出される一般書と同じくらい、あるいはそれ以上に、「いま私たちはどんな時代を生きているのか」にヒントを与えてくれる重要な書物たちです。
このニュースレターでは、毎月、その月に刊行された人文・社会科学領域の新刊書の中から、デサイロとして注目したいものをピックアップして紹介してきました。
■【2024年1月刊】気候がもたらす「視差」、〈長期主義〉倫理学、町工場の民族誌……デサイロが注目したい人文・社会科学の新刊10冊
■【2024年6月刊】気候リヴァイアサン、過激主義の主流化、非美学……デサイロが注目したい人文・社会科学の新刊10冊
■【2024年11月刊】女の子のための西洋哲学入門、アメリカ「小さな政府」のゆくえ、においの歴史……デサイロが注目したい人文・社会科学の新刊11冊
本記事では2024年の締めくくりとして、今年刊行された人文・社会科学領域の新刊書の中から、とりわけ博士論文をベースに書籍化したものに絞り、「いま私たちはどんな時代を生きているのか?」を考えるヒントをくれる29冊をピックアップしました。
エスニック空間の社会学から、茶道の文化経済学、ゾンビの美学、組織的な不正行為の研究まで、さまざまな視点から現代社会を読み解く強力な補助線を与えてくれる書籍ばかりです。
気になるタイトルがあれば、読書リストにぜひ加えてみてください。
1.在日タイ女性の高齢期と脆弱性 : トランスナショナルな社会空間と埋め込まれたジェンダー規範
概要(版元ウェブサイトより引用)
在日タイ女性に焦点を当て、日-タイの越境的な家族関係、それぞれの社会・制度に埋め込まれたジェンダー規範による、高齢期に向けた選択における制約と、彼女たちが抱える脆弱性を明らかにする。高齢期を迎えるニューカマーの実相に迫った嚆矢となる研究成果。
著者
新倉 久乃(著)
和光大学現代人間学部非常勤講師・客員研究員、立教大学異文化コミュニケーション学部非常勤講師など。フェリス女学院大学大学院人文科学研究科博士後期課程修了。文学博士。2022年度国際ジェンダー学会研究奨励賞を受賞。研究関心:国際社会学、ジェンダー、貧困と社会保障、在日タイ女性の高齢化、多文化共生。
経歴:特定非営利活動法人女性の家サーラー、寿・外国人出稼ぎ労働者と連帯する会カラバオの会(神奈川県)とThai Community Development Center(Los Angeles, US)で、在外タイ人の人身取引被害者、生活困窮に直面する女性および母子を対象とした福祉・生活相談のケースワーカーを経て現職。
主な業績:「移住女性の安全な定住と福祉・法制度に埋め込まれたジェンダー規範――ひとり親となった在日タイ女性の事例から」『国際ジェンダー学会誌』(17号、2019年)、「子育て期を終えた在日タイ女性の帰国という選択――社会保障制度と越境家族の紐帯維持の狭間で」『経済社会とジェンダー:日本フェミニスト経済学会誌』(5巻、2020年)。
発売日
2024/01/10
版元
晃洋書房
2.ひとつとして同じモノがない : トヨタとともに生きる「単品モノ」町工場の民族誌
概要(版元ウェブサイトより引用)
現代工業社会においてモノをつくるとはどのようなことか。
従来ほとんど光が当たることがなかった「単品モノ」町工場へのフィールドワークから、愛知県西三河地域の町工場がどのような技術や工夫、誇りをもってモノづくりをおこない、どのようにトヨタとともに関係し合いながら発展してきたのか、そのダイナミズムを明らかにする。
著者
加藤英明 (著/文)
南山大学人類学研究所プロジェクト研究員。
専攻・専門は、文化人類学、技術研究。
主な著作に、「金属切削加工に従事する町工場の技術──シェーン・オペラトワール論を分析視座として」(『物質文化』 96 、2017年)、「「公差」におさめる──システム、技術的実践、企業間関係 」(『年報人類学研究』12、2021年)、「新旧の工作機械の使用をめぐる町工場のモノづくり──デジタル・物質性・技能の観点から」(後藤明監修、大西秀之編『モノ・コト・コトバの人類史――総合人類学の探求』、雄山閣 、2022年)。
発売日
2024/1/22
版元
春風社
3.エスニック空間の社会学 : 新大久保の成立・展開に見る地域社会の再編
概要(版元ウェブサイトより引用)
エスニックな観光地「新大久保」の出現は、居住空間としての大久保地域をいかに変容させたのか。定住を要件とする従来の多文化共生論や地域社会像を批判し、住民だけでない多様な人々の共在から成るプロセスとしての、新たな地域社会概念を提起する。
著者
申 惠媛 (著)
宇都宮大学 国際学部 国際学科 助教
発売日
2024/1/31
版元
新曜社
4.「象牙の塔」と「生ける社会」の結びめ
概要(版元ウェブサイトより引用)
近代日本社会に大学を生みだそうとしたとき、教師たちが学問を語りかけたのは日々を営む市井の人びとであった。東京大学、早稲田大学、慶應義塾…官立私立の枠を超え連環していった学術演説会や講談会の試みを活写し、現代もなお揺れ動く大学と社会との距離感をまなざす。
著者
菅原 慶子 (著/文)
東京大学大学院教育学研究科教育学研究員
発売日
2024/2/1
版元
東京大学出版会
5.インバウンドツーリズムの復興にかかわる諸課題の考察
概要(版元ウェブサイトより引用)
インバウンド観光は長期的な経済停滞に悩む日本において唯一高度成長を遂げ、成長が期待できる分野である。本書はパンデミックから立ち直りつつあるインバウンド観光に関わる諸課題を論じ、訪日中国人観光客の観光需要に関わる経済要因、訪日外国人観光客の満足度に及ぼす要因、訪日中国人の年齢構成に対する中国の少子高齢化の影響を検証する。
著者
森田金清 著
発売日
2024/2/3
版元
文眞堂
6.シリアスゲームの社会的受容を問う 韓国の事例にみる「ゲーム」と「教育」の社会文化的研究
概要(版元ウェブサイトより引用)
シリアスゲームは、教育や啓発目的の「役に立つ」ゲーム。その活用が注目される一方で、批判や不要論も根強い。韓国を事例に、日本にも通じるその可能性と課題を検討する。
著者
シン・ジュヒョン(SHIN Juhyung)(著/文)
※初版刊行時のものです
立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員。韓国ソウル生まれ。2020年9月、立命館大学大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程修了。博士(学術)。専門はゲーム研究、地域研究。社会文化的観点から、シリアスゲーム、ゲームをプレイする「場」やインディーゲームについて研究している。科学技術融合振興財団 第10回FOST新人賞、日本デジタルゲーム学会 2021年度若手奨励賞受賞。
発売日
2024/2/9
版元
福村出版
7.人類の会話のための哲学 : ローティと21世紀のプラグマティズム
概要(版元ウェブサイトより引用)
「ローティという不世出の哲学者を、〈人類の会話〉の守護者であろうとし続けた人物として再発見する。」朱喜哲は、混沌とした現在の日本・世界でローティが注目されるべき意味を鮮やかに記した。
古代ギリシア以来の伝統につらなる哲学を筆頭として「唯一の真正な声」を求める営みは、ひとびとの小さな声をつぐませる。
「雑多で多様な複数の声たち」、その会話こそが人類が豊かに暮らす希望ではないか。
哲学者ローティは多くの批判を引き受けながら、その声たちを守ることこそを哲学の任務として引き受けた。
本書は、第一部はミサック、第二部はセラーズ、第三部はブランダムを中心的に扱うことで、先行研究から後世の視点も含め包括的なローティ像を描き出している。
また、同時に現代的な意義、政治や社会の状況に対してどのように参照しうるのかを明らかにした。
こうしてローティの思想を中心にプラグマティズムの意義が明らかにしていくことで、本書は古典から未来へ繋がる哲学の姿をも希望をもって浮かび上がらせる。
著者
朱 喜哲 (著/文)
1985年大阪生まれ。専門はプラグマティズム言語哲学とその思想史。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。大阪大学社会技術共創研究センター招へい教員ほか。
著書に『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす』『バザールとクラブ』、共著に『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』『世界最先端の研究が教える すごい哲学』『在野研究ビギナーズ』『信頼を考える』など。共訳に『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』など。
発売日
2024/2/26
版元
よはく舎
8.止まり木としてのゲストハウス―モビリティと時限的つながりの社会学
概要(版元ウェブサイトより引用)
旅先の刹那の出会いは,
私たちに何をもたらすのか?
ゲストハウスでの長期間のフィールドワークと,モビリティ研究の丹念な整理を通じて,旅先で見知らぬ他者と出会い,かかわることの意味を探る.
「流動」の時代のつながりを問い直す,新しい観光社会学
著者
鍋倉 咲希(著/文)
立教大学観光学部助教
発売日
2024/2/29
版元
晃洋書房
9.精神障がいのある人を排除する社会でよいのか : 国際比較調査からみる人間の価値
概要(版元ウェブサイトより引用)
統合失調症を患う人々にも,自分の生活を決める権利はある。
心身の脆弱性は,むしろ社会を豊かにするものではないか。脱施設化を遂げたフランス,西洋精神医学が普及していないベトナムとの国際比較調査を通して,新しい社会を提言する。
著者
樋口麻里
2005年 大阪大学医学部保健学科看護学専攻卒業。看護師・保健師・精神保健福祉士。
2015年 大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。
大阪大学大学院人間科学研究科助教,日本学術振興会特別研究員を経て,現在,北海道大学大学院文学研究院准教授。
主 著
“How do patients and families evaluate attitude of psychiatrists in Japan ?”(分担執筆,2023,BMC Psychiatry, 23:253)
『いまを生きるための社会学』(分担執筆,丸善出版,2021)
“Social Change in Japan, 1989―2019 : Social Status, Social Consciousness, Attitudes and Values”(分担執筆,Routledge, 2020)など。
発売日
2024/03/05
版元
ナカニシヤ出版
10.柳宗悦とウィリアム・モリス: 工藝論にみる宗教観と自然観
概要(版元ウェブサイトより引用)
なぜ工藝は人間にとって重要なのか?近代の産業化の渦中でこの問いを正面から取り上げた柳宗悦とウィリアム・モリスの思想は、藝術論の枠にとどまらず、ルネサンス以降の人間観や自然観を根底から問い直すものであった。民藝運動とアーツ・アンド・クラフツ運動を支えたそうした両者の思想は、その背後にいかなる奥行きをもち、また、そこにはどのような共通性と差異があったのか。本書は、近年再評価の機運高まる両者の思想に、比較思想の観点からアプローチし、その関係について新しい理解を提示しようとする試みである。
著者
島貫悟 著
発売日
2024/03/07
版元
東北大学出版会
11.日本における経営理念の歴史的変遷 : 経営理念からパーパスまで
概要(版元ウェブサイトより引用)
前半で、経営理念という言葉の誕生から一般への普及までの歴史を確認し、後半で、3つの概念のうち「企業組織の経営理念」の現在までの歴史的変遷を振り返り概念を整理する。
著者
野林 晴彦(著)
発売日
2024/03/21
版元
中央経済グループパブリッシング
12.ゾンビの美学 : 植民地主義・ジェンダー・ポストヒューマン
概要(版元ウェブサイトより引用)
ゾンビとは一体何なのか
博士論文をもとにした学術研究がついに誕生
「だが現在、または近い未来において、人間に「似ているにすぎないもの」として作り出されたゾンビの方に、人間が「似て」くるだろう。」(本書より)
『恐怖城(ホワイト・ゾンビ)』『私はゾンビと歩いた!』から、ジョージ・A・ロメロを経て『バイオハザード』『ワールド・ウォー・Z』まで、ヴードゥー呪術、噛みつき、ウィルス感染など、多様な原因で人間ならざるものへと変化し、およそ100年にもわたり増殖し続けるゾンビと作品の数々。恐怖の対象として類を見ないその存在に託されたものは何か。本書では、ゾンビの歴史を通覧し、おもに植民地主義、ジェンダー、ポストヒューマニズムの視点から重要作に映るものを仔細に分析する。アガンベンの生権力論を援用し、ゾンビに現代および近未来の人間像をみる力作。
著者
福田 安佐子 (著)
1988 年生。国際ファッション専門職大学国際ファッション学部助教。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。博士(人間・環境学)。専門はホラー映画史、表象文化論、身体論。共著に『ヒューマン・スタディーズ:世界で語る/世界に語る』(集広舎)、『モダンの身体:マシーン・アート・メディア』(小鳥遊書房)、共訳書にブライドッティ『ポストヒューマン』(フィルムアート社)、クロンブ『ゾンビの小哲学』(人文書院)がある。
発売日
2024/03/30
版元
人文書院
13.宗教の自由と不寛容のアメリカ史 : 19世紀の反カトリックとプロテスタント
概要(版元ウェブサイトより引用)
プロテスタント多数派のもとで成立したアメリカ合衆国は、「宗教の自由」を憲法に掲げながらも、様々な「宗教的不寛容」を併存させていた。宗教の自由の理念の形成と展開、世界的普及の実態を反カトリック的プロテスタントたちの活動から明らかにする。
著者
佐藤 清子 (著/文)
東京大学大学院人文社会系研究科助教
発売日
2024/3/27
版元
東京大学出版会
14.海と路地のリズム、女たち : モザンビーク島の切れては繋がる近所づきあい
概要(版元ウェブサイトより引用)
海の波や天候は生計を左右する。かつて栄えた都市は現在では廃れて産業を失い漁村となった。稠密に建てられた家々のあいだに路地が張り巡らされ、住居では複数の家族が共に住む。モザンビーク島の女性たちの近所づきあいは、こうした繋がりのなかから生まれる。
一方で彼女たちは、いくつもの仕方でみずからを切り離し、人づきあいのバランスを調整する。あけすけなゴシップを言い合う、家族どうしでの食べ物のやりとりをバタリと打ち切る。それらは島の間延びしたリズムからすれば、あまりにドライな切断に見える――
著者
松井梓 (マツイアズサ) (著/文)
人間文化研究機構 人間文化研究創発センター 研究員/国立民族学博物館 環インド洋地域研究拠点 特任助教
専攻・専門:アフリカ地域研究・文化人類学
主な著作に「ゴシップの渦中で共在する:モザンビーク島の女性たちの近所付き合い」『アジア・アフリカ地域研究』(21(2)、2022年)など。
発売日
2024/4/2
版元
春風社
15.共在する人格 : 歴史と現在を生きるメラネシア社会
概要(版元ウェブサイトより引用)
「人格」は文化人類学の中心テーマであり続けてきた。M.モース以降、魅力的で刺激的な議論もたくさん生まれた。だがそれはとても限定的な議論であったことも否めない。
本書の舞台となるのは太平洋に浮かぶ小島である。19世紀以降、西洋からの強大な力がこの島を飲みこむ。伝統は大きく変容し、その傷跡は現在も残されている。そのなかで彼らの「人格」はいかに変容し、持続したのか。著者の長年のフィールドワークが結実した豊穣な民族誌。
たしかに純粋なモデルとしてのみ抽出すれば、彼らの人格を西洋とはまったく異なる「人物=役割(ペルソナ―ジュ)」として示すこともできる。だが彼らの現実はそうではない。それは「めちゃくちゃ」に毀損しているのだ。ならばその「めちゃくちゃ」になった現実から始めるしかない。そしてそれは、彼らの経験した特異な歴史と、現在にまで残った傷跡を理解することでもある。現実の人格にはそれが深く刻み込まれている。[本文より]
著者
福井栄二郎 (著/文)
島根大学法文学部・准教授
社会人類学・オセアニア研究
主な著作に、『交錯と共生の人類学:オセアニアにおけるマイノリティと主流社会』(共著、風間計博編、ナカニシヤ出版、2017年)、『多配列思考の人類学:差異と類似を読み解く』(共著、白川千尋・石森大知・久保忠行編、風響社、2016年)、「From Kastom to Developing Livelihood: Cruise Tourism and Social Change in Aneityum, Southern Vanuatu」(『People and Culture in Oceania』35、2020年)などがある。
発売日
2024/4/2
版元
春風社
16.声なきものの声を聴く : ランシエールと解放する美学
概要(版元ウェブサイトより引用)
“声を持たないとされてきた者の声を聞こえるようにし、不可視とされてきた者を可視的にし、能力を持たないとされてきたものの能力を主張する。それこそが政治なのだ──” 本書ではフランス現代思想の重鎮、ジャック・ランシエールの美学・芸術思想を扱う。だが、取り上げるのはランシエールだけではない。ドゥルーズ、ブルデュー、カント、リオタール、グリーンバーグ、フローベールらを手がかりに、現代思想のあり方そのものを問い、日常生活のなかに息づく美や感性を見つめ直す。 若き俊英による待望の芸術論。 【第4回東京大学而立賞 受賞作!】
著者
鈴木 亘(著/文)
1991年生まれ。現在、東京大学大学院人文社会系研究科助教。専門は美学。主な論文に、「ランシエールの政治的テクスト読解の諸相──フロベール論に基づいて」(『表象』第15号、2021年)、「ランシエール美学におけるマラルメの地位変化──『マラルメ』から『アイステーシス』まで 」(『美学』第256号、2020年)。他に、「おしゃべりな小三治──柳家の美学について 」(『ユリイカ』2022年1月号、特集:柳家小三治)など。訳書に、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『受肉した絵画』(水声社、2021年、共訳)など。
発売日
2024/4/4
版元
堀之内出版
17.企業の社会的責任遂行論 : 社会的課題マネジメントの理論と実証
概要(版元ウェブサイトより引用)
近年、各社それぞれに「SDGs」達成に貢献する取り組みが進められている。「CSR」「コンプライアンス」という言葉は既にビジネスの基本用語となり、企業として取り組んで当たり前とすら言える。このように社会的課題への取組みが企業において様々に進んでいることについては、論を俟たないであろう。
一方で、その理論に目を向けると、2010 年代以降、発展は芳しくない。それは「社会的課題の解決を企業にすべて平等に求める」とする現行の企業と社会論の立場と「企業は利益の出る範疇で社会的課題に取り組むべき」とする経営戦略論の立場が対立して拮抗しているからである、と筆者は言う。
そもそも、「SDGs」「サステナビリティ」「CSR」「コンプライアンス」など、それぞれ類似の概念ながら、時代と共にキーワードが移り変わり、その定義等も示されるものの、その具体的な取り組み方は企業や組織に一任されている。すなわち企業は自らマネジメント方針を策定し遂行しなければならない。一方で CSR 活動は本来「直接的な利益を目的にしないが企業の存続に貢献する」活動なので、例えば同じ植林活動でも損害保険業と製紙業では意味合いが異なるように、業種や企業によって位置づけが異なり、一般化しがたく、比較も難しい。
本書は、CSR の理論的問題点をクリアにしたのち、CSR 活動や CSV 等の活動の定義と効果を検討した上でマネジメントモデルを提示すると同時に、ベストプラクティス企業を対象に効果についての実証分析を行う。
「流行りに流されないわが社の社会的責任遂行」を考えるための必読の書といえよう。
著者
吉田 哲朗(著)
発売日
2024/4/13
版元
白桃書房
18.「多文化共生」言説を問い直す : 日系ブラジル人第二世代・支援の功罪・主体的な社会編入
概要(版元ウェブサイトより引用)
日系ブラジル人第二世代への調査から、多文化共生施策にもとづく「支援」が排除や周縁化を生み出している矛盾を実証的に提示。ハイブリディティを戦術的に利用した主体的な社会編入にも着目し、既存の多文化共生言説を再検討し、制度の再構築に示唆を与える。
著者
山本 直子(著)
東洋英和女学院大学国際社会学部専任講師。
慶應義塾大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。
専門は社会学。主な業績:「公立学校の日本語指導員が現実に果たす多様な役割――愛知県豊田市の事例から」『移民政策研究』(6号、2014年)、「多文化共生概念が『禁止』するもの――ブラジル人集住地区のリアリティ」塩原良和・稲津秀樹編『社会的分断を越境する――他者と出会いなおす想像力』(青弓社、2017年)、「貧困とは何か――子ども・女性・移民から考える不利の重なり」桜井愛子・平体由美編『社会科学からみるSDGs〔第2版〕』(小鳥遊書房、2024年)。
発売日
2024/4/22
版元
明石書店
19.闘争のインターセクショナリティ: 森崎和江と戦後思想史
概要(版元ウェブサイトより引用)
出逢い、聞き、書き記す
森崎和江の仕事をまなざすと、その思想にインターセクショナリティの萌芽を見出すことができる。フェミニズムやポストコロニアル思想などの系譜を繙くことで浮かび上がるものは何か。戦後思想史を更新する、俊英による画期の書。
著者
大畑凜(著)
1993年生まれ。専攻は社会思想、戦後思想。大阪府立大学大学院単位取得退学。博士(人間科学)。現在、日本学術振興会特別研究員PD、大阪大学特任研究員。共著に『軍事的暴力を問う』(青弓社)、共訳に、デイヴィッド・ライアン『ジーザス・イン・ディズニーランド』(新教出版社)がある。
発売日
2024/4/25
版元
青土社
20.「声なき声」のジャーナリズム : マイノリティの意見をいかに掬い上げるか
概要(版元ウェブサイトより引用)
SNS時代のジャーナリズム論
誰もが情報を発信し、フェイクニュースが氾濫するこの時代に、
ジャーナリストは「真正性」をいかに担保し、
マイノリティの声を掬い上げ、活性化させるべきなのか。
本書は、現代のデジタル化するメディア環境において、言説がより個別に、より自然に、より親密になり、「真正性」(本物らしさ)を追い求めるなかで、ジャーナリズムをどのように再定義すべきかを論ずるものである。
『真相深入り!虎ノ門ニュース』や『ハートネットTV』、『クィア・アイ』といったTV番組の言説構造の分析から、情報の送り手と受け手の関係性を編み直し、ジャーナリズムが〈声なき声〉をいかに掬い上げ、活性化すべきかの方途を探る。
そして、ジャーナリズムの担い手が送り手と受け手の垣根を超え、等身大の自分自身として語り、自分たちの居場所としてのメディアについて考える。
そうした社会のかたちのイメージを描き出し、もっと幅広い文化的実践をジャーナリズムとして再評価していく。
著者
田中瑛 (タナカアキラ) (著/文)
実践女子大学人間社会学部専任講師
1993年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業(同メディア・コミュニケーション研究所修了)後、
東京大学大学院学際情報学府社会情報学コース博士課程修了。博士(社会情報学)。
日本学術振興会特別研究員(DC1)、九州大学大学院芸術工学研究院助教を経て、2024年より現職。
主要論文に、「真正性の政治とジャーナリズム――ポピュラーな正当化の可能性と矛盾の考察」『メディア研究』102号、183-199頁。「公共放送における「声なき声」の包摂の葛藤――NHKの福祉番組『ハートネットTV』のソーシャルメディア活用を事例として」『マス・コミュニケーション研究』95号、125-142頁。日本計画行政学会・社会情報学会若手研究交流会優秀賞受賞、など受賞多数。共著書に、小熊英二・樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』(慶應義塾大学出版会、2020年)、伊藤守編『東京オリンピックはどう観られたか――マスメディアの報道とソーシャルメディアの声』(ミネルヴァ書房、2024年)など。
発売日
2024/5/8
版元
慶應義塾大学出版会
21.茶道の文化経済学
概要(版元ウェブサイトより引用)
限られた蓄積しかない文化経済学のフロンティア 伝統文化。
家元茶道が持つ高度な知的体系を “稽古場 茶会 道具” の3つの経済から解き明かし、広い経済圏、巨大な内需市場が形成されていることを示す。
著者
太田 直希(著/文)
同志社大学経済学部助教・同創造経済研究センター兼担研究員。愛知県岡崎市生まれ。京都大学経済学部経済学科卒業。同志社大学大学院経済学研究科博士後期課程博士学位取得修了。専門は文化経済学。日本文化の文化的・経済的な価値創造につながる活動をライフワークとし、京都を中心に茶道をはじめ幅広く文化を伝える活動を展開中。主要論文に、「日本の伝統文化と経済に関する考察」「書道の文化経済序論-茶道文化と対照して-」等。茶道表千家講師。
発売日
2024/5/28
版元
水曜社
22.日本人の対難民意識 : メディアの表象・言説・作用
概要(版元ウェブサイトより引用)
日本社会は難民をどのようにとらえてきたのか
新聞記事(マスメディア)とツイッター(ソーシャルメディア)のなかの難民表象・言説とは?
人々の難民イメージはどのように規定されるのか?
日本社会は難民をどのようにとらえてきたのか。新聞およびツイッターを対象とした定量的なテキスト分析、ウェブアンケート調査データにもとづく統計分析を行い、計量的・実証的に検証。日本を事例としたメディア・フレームを網羅的に分析する初めての研究。
著者
大茂矢 由佳(著)
埼玉大学学術院講師(大学院人文社会科学研究科、教養学部)。筑波大学人文社会科学研究群国際日本研究学位プログラム博士後期課程修了。博士(国際日本研究)。主な著作に、「転機を迎えた日本の難民政策と日本人の対難民意識の変遷――ミャンマー、アフガニスタン、ウクライナでの政変を経て」『政治社会論叢』8号、1-22頁、2023年(滝澤三郎との共著)、「『難民』という名の言説――脱北、シリア、ジェンダー」池直美・エドワード・ボイル編『日本の境界――国家と人びとの相克』北海道大学出版会、93-105頁、2022年(明石純一との共著)、「日本人の対難民意識とメディア報道接触に関する実証研究」『難民研究ジャーナル』11号、130-145頁、2022年(単著)など。第8回若手難民研究者奨励賞受賞。
発売日
2024/6/20
版元
明石書店
23.帝国アメリカがゆずるとき : 譲歩と圧力の非対称同盟
概要(版元ウェブサイトより引用)
強大な力を誇る「帝国」アメリカは、日本や西欧諸国と「非対称同盟」を結んでいる。だがアメリカは同盟国に圧力をかけるだけでなく、ときに同盟国に有利となる政策を自ら選択してきた。なぜ帝国アメリカは「ゆずる」のか。ベトナム戦争期の日米・米韓・米比同盟を一次史料に基づいて検討し、非対称同盟を理論的に解明する。
「同盟のイメージを塗り替える、予想外で、画期的で、痛快な研究」 ――藤原帰一氏、推薦!
著者
玉置 敦彦(著/文)
1983年生.中央大学法学部准教授(国際政治学).東京大学法学部卒業,Boston University(フルブライト奨学生)及び Yale University(Department of History)留学を経て,東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了,博士(法学).専門は同盟論,日米関係史,アジア太平洋国際関係.
主な論文に「ジャパン・ハンズ──変容する日米関係と米政権日本専門家の視線,1965─68年」『思想』第1017号,「秩序と同盟──アメリカの「リベラルな国際秩序」戦略」『国際安全保障』第45巻第4号,「ベトナム戦争をめぐる米比関係──非対称同盟と「力のパラドックス」」『国際政治』第188号,「同盟論からみるウクライナ戦争」『思想』第1201号,他多数.
発売日
2024/6/21
版元
岩波書店
24.ギャルであり、ママである : 自分らしさと母親らしさをめぐって
概要(版元ウェブサイトより引用)
見た目だけで決めつけないでほしい
一見すると既存の母親らしさから解放されて、自由に生きているように見えるギャルママ。
彼女たちは本当に自由な存在なのか。
ファッションや子育て意識を手がかりに、自分らしさと母親らしさの両立と葛藤の様子を描き出す。
著者
髙橋 香苗(著)
発売日
2024/6/30
版元
晃洋書房
25.著作権の保護範囲と正当化理論
概要(版元ウェブサイトより引用)
「著作権はどのような作品に及ぶべきか」という難問に挑む
作品どうしを「似ている」と判断する基準は何か、そもそも先行する作品と似ている作品が創作されることは何が問題なのか、といった類似性の問題は、線引きが難しく、議論も複雑化しています。
本書は、このような類似性要件についての検討に始まり、「著作権の保護範囲をどのように画するべきか」「後行作品に著作権を及ぼすことは、どのような根拠によって正当化できるのか」という著作権制度の根幹をなす問題にまで射程を広げ、解明を試みます。後行作品における先行作品の利用態様を競合的利用と改作的利用に分類した上で、心理学や経済学の知見も駆使しながら探究する野心作!
著者
髙野 慧太(著/文)
中京大学法学部准教授(2024年6月現在)
発売日
2024/7/18
版元
弘文堂
26.ありふれた〈平和都市〉の解体 : 広島をめぐる空間論的探求
概要(版元ウェブサイトより引用)
〈平和都市〉に生まれた「原爆スラム」とは何か?
1958年の「復興博」と戦前の「昭和博」「時局博」を貫くアクターたち
彼らが夢見た〈平和都市〉とは何だったのか?
そして平和塔・平和の鐘はなぜ複数あるのか?
いくつもの問いとともに描かれる、
戦前と戦後を跨ぐ「8月6日」に収斂しない広島とは——
気鋭の都市研究者が描く、異端の広島論
著者
仙波希望(著/文)
1987年、広島生まれ。札幌大谷大学社会学部地域社会学科准教授。東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程国際社会専攻修了。博士(学術)。専門は都市研究、カルチュラル・スタディーズ。主な著書に『惑星都市理論』(共編、以文社、2021年)、『忘却の記憶』(共編、月曜社、2018年)。主な業績に「「平和都市」の「原爆スラム」」(『日本都市社会学会年報』第7回日本都市社会学会若手奨励賞受賞、2016年)。
発売日
2024/8/2
版元
以文社
27.「後進国」日本の研究開発 : 電気通信工学・技師・ナショナリズム
概要(版元ウェブサイトより引用)
「後進国」は、発明された技術の利用者にとどまるのか。鳥潟右一や八木秀次、松前重義など、移植や模倣を脱した戦前の技術者たちの系譜を、彼らを突き動かした要因や跳躍を可能にした条件ともども明らかにする。挫折した構想や時代的制約も見据え、技術史的達成を冷静に分析した気鋭の力作。
著者
河西 棟馬(著)
1990年 長野県に生まれる
2013年 京都大学文学部卒業
2020年 京都大学大学院文学研究科博士後期課程指導認定退学
2022年 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院講師(現在に至る)
2023年 京都大学博士(文学)
発売日
2024/8/26
版元
名古屋大学出版会
28.組織的な不正行為の常態化メカニズム : なぜ、不正行為は止められないのか
概要(版元ウェブサイトより引用)
組織には常態化した合理化された不正行為が存在する。ただ制度をつくるだけでは改善はできない。
著者
會澤 綾子(著/文)
明治大学商学部専任講師
発売日
2024/9/10
版元
千倉書房
29.当事者が語る「貧困とはなにか」 : 参加型貧困調査の可能性
概要(版元ウェブサイトより引用)
日本で実施した参加型貧困調査の記録とその分析。当事者たちが主体となってグループディスカッションを行い、「貧困」をどのように理解しているのか、何に心配し困っているのか、それにどのように対応したのかを議論していく過程を記述する。
著者
陳 勝(著)
北海道大学大学院教育学院博士後期課程修了,博士(教育学).
専門は貧困研究,教育福祉論,社会福祉論.
現在:尚絅大学短期大学部助教,北海道大学大学院教育学研究院専門研究員
発売日
2024/10/25
版元
北海道大学出版会
デサイロでは、ニュースレターやTwitter、Instagramなどを利用して、プロジェクトに関わる情報を継続的に発信中。Discordを用いて研究者の方々が集うコミュニティも運営しています。ご興味のある方はニュースレターの登録や各SNSのフォロー、あるいはDiscordにぜひご参加ください。
■Discord:https://discord.gg/ebvYmtcm5P
■Twitter:https://twitter.com/desilo_jp
■Instagram:https://www.instagram.com/desilo_jp/
【De-Siloではサポーター(寄付者)を募集中です】
非営利型一般社団法人として運営しているデサイロでは、サポーター(寄付者)を募集しております。私たちの活動に共鳴し、デサイロおよび研究から生まれる知の可能性をともに切り拓き、豊かにしていく営みを共にしていただける方は、ぜひ申し込みをご検討ください。現在、1万円を寄付いただくごとに、出版レーベル「De-Silo Label BOOKS」の第一弾書籍である 論集『生の実感とリアリティをめぐる四つの探求──「人文・社会科学」と「アート」の交差から立ち現れる景色』(限定1000部) を1冊プレゼント中です。デサイロ第1期の研究プロジェクトに参加した人文・社会科学分野の4名の研究者(磯野真穂、柳澤田実、山田陽子、和田夏実)による論考に加え、3名の小説家(山内マリコ、李琴峰、松田青子)による書き下ろし短篇が収録されています。サポーターの詳細や申し込み方法は、以下のリンクよりご確認ください。