同時代を生きる「研究者」と「アーティスト」の協働から立ち現れるもの──DE-SILO EXPERIMENT 2024開催に寄せて
11組のアーティストが集い、研究から生まれた“知”を起点に展示やパフォーマンスを行う「DE-SILO EXPERIMENT 2024」が4月13日と14日に開催される。なぜ研究とアートを交差させるのか、そこから立ち現れるものとは何か──。開催の背景をデサイロ代表理事の岡田弘太郎がまとめた。
「研究」と「アート」が交差する2daysイベント、DE-SILO EXPERIMENT 2024を4月13日から14日にかけて表参道のWALL&WALL / OMOTESANDO MUSEUMの2会場で開催します。
そのステートメントやイベントの詳細についてはウェブサイトに譲るとして、ここでは開催に至るまでの経緯と、そのプロセスでの気づきについて記しておこうと思います。
DE-SILO EXPERIMENT 2024公式ウェブサイト
2022年10月に立ち上がったデサイロですが、その構想が始まったのは21年末頃でした。共同設立者で理事も務めていただいている社会起業家/フィランソロピストの久能祐子さんから「日本のアカデミアをより盛り上げるために何かできないか」というお題をいただき、それに応答するようにデサイロのアイデアが少しずつかたちになっていきました。
そもそも久能さんを紹介してくださったのは、『人新世の哲学』などの著書で知られ、環境哲学者ティモシー・モートンの哲学や思想を日本に紹介してきた篠原雅武さん(京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定准教授)でした。
自分が編集者として関わっている『WIRED』日本版にて、篠原雅武さんにコンタクトをとり、最初にお話を伺ったのが19年末。そのときのテーマは「Anthropocene & Beyond(人新世とその先へ)」で、その翌年の20年には、篠原さんが所属する京都大学大学院総合生存学館が主催、『WIRED』日本版が共催をした国際シンポジウム「ポスト人新世における生存の未来」にも取り組ませてもらいました。
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シンポジウムの開催に向けて篠原さんと交流するなかで、大きな気づきがありました。それは、「人新世」という概念や「人間中心主義からの脱却」といった考え方は、建築家やデザイナー、アーティストの方々を中心に受け止められているのではないか、ということでした。
先述のモートンは、人間には巨大すぎて不可知な存在を意味する「ハイパーオブジェクト」という概念を提唱したことで知られていますが、アーティストのオラファー・エリアソンやチェルフィッチュを主宰する岡田利規さんはモートンにインスピレーションを受けて作品を生み出しており、まさしく“芸術”が研究知と社会をつなぐ新しい回路になっているように感じていました。
そうした背景や経緯から、「研究」と「アート」の協働によって書籍や論文だけにとどまらない新しい知の流通回路をつくれるのではないかと考えるようになり、デサイロ設立時の中心的アイデアのひとつとなっていきます。
「EXPERIMENT」という営為
そして、デサイロ立ち上げ時の第一期の研究プロジェクトとして、人類学者・磯野真穂さん、哲学者・柳澤田実さん、社会学者・山田陽子さん、メディア研究者・和田夏実さんの4名に参加いただき、「いま私たちはどんな時代を生きているのか」を考えるための研究テーマを設定しました。
・21世紀の理想の身体(磯野真穂)
・「私たち性 we-ness」の不在とその希求(柳澤田実)
・ポスト・ヒューマン時代の感情資本(山田陽子)
・「生きているという実感」が灯る瞬間の探求(和田夏実)
それぞれの研究が進行するなかで、研究への“応答者”となるアーティストの方々に制作を依頼し、DE-SILO EXPERIMENT 2024では先鋭的な表現を追求してきた11組のアーティストにコラボレーターとして参加いただけることになりました。
小説から音楽、映像、メディアアートまで、ジャンルも表現媒体も多様なアーティストが集い、イベント当日はパフォーマンス、展示、ワークショップ、トークセッションとさまざまなプログラムが展開されます。
「EXPERIMENT」というイベント名についても補足すると、当然ながらEXPERIMENT(実験)とは科学的発見のプロセスにおいて仮説の検証や、既知の事実の実証のために行われてきた営為です。今回は「研究」と「アート」の協働という行為そのものがもつ実験性、そしてコラボレーションにより作品を生み出すこと自体がアーティストにとっても実験的な挑戦になることを願いながら、「DE-SILO EXPERIMENT」と名付けました。
「同時代性」をキーワードにサイロから抜け出す
研究者とアーティストの協働のプロセス自体も非常にユニークなものでした。今回、アーティストのなかには実際に研究者の方のフィールドワーク先に足を運んでいただいたり、アーティストの表現が研究者の理論構築につながったりと、深い協働が最終的な作品やパフォーマンスに結実している感覚があります。
そうした取り組みを象徴するキーワードは「同時代性」だと考えています。デサイロという名前は、学問分野におけるサイロ化から脱するという意味で名付けた団体名ですが、それは学問分野における脱サイロ化にとどまりません。今回のイベントでは、異なる表現ジャンルやコミュニティを越境し、新たなる知が生まれる現場を立ち上げることを意味します。
研究者とアーティスト、それぞれが属するカテゴリは違えど、実は近しい課題意識をもっていたり、この世界で起きているさまざまな事象のリアリティをその身体を通じて同じように感じていたりする。そうした同時代を生きる研究者とアーティストがこのタイミングで出会い、コラボレーションすることで、新たに立ち現れるものが多くあるはず──。この出会い、コラボレーションする輪のなかに、当日足を運んでくれるみなさんも巻き込んでいければと思います。
バイブスで始まって、思考で終わりたい
振り返ると、篠原さんとの対話が始まった2019年の出来事が、今回のイベントにつながっているように思えます。そう考えると4〜5年かかったプロジェクトですし、今回のDE-SILO EXPERIMENT 2024はひとつの成果点でありながらも、ゴールではないと考えています。
イベントでのパフォーマンスを経て作品制作に取り組んでいただくアーティストの方もいますし、この共同制作/研究のプロセスをひらくことで、会場を訪れるみなさんにもそのプロセスに参加してもらいたいと思っています。イベントが終わった後も、「研究“知”とともに次なる社会を探索する」というデサイロのミッション達成に向けて活動をより拡大していきます。
最後に、今回出演いただくアーティストSkaaiさんの言葉を紹介させてください。Skaaiさんは九州大学大学院にて情報法の研究をし、その後ラッパーに転身した異色のアーティスト。昨年末、AbemaTVで公開されたドキュメンタリーシリーズ「my name is」にて、Skaaiさんは次のように語っています。
「バイブスで始まって、思考で終わりたい」
DE-SILO EXPERIMENT 2024で展開されるパフォーマンスや体験型展示、ワークショップなどが、いま私たちが置かれた状況や時代性、そしてこれからの社会のあり様を思考するきっかけになることを願っています。その瞬間をぜひ一緒につくり上げたいと思っているので、みなさんの参加を心からお待ちしております。
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